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心の行方

俊×蘭世

高校以降のパラレルです






暑い夏の日だった。

ジムから帰ってきた俺はポストの中の郵便物の束を取り出し、

マンションの中に入ろうとしていた。



高校を卒業して1年半。

正式にボクシングジムに入り、プロボクサーとしての契約をした。

そして自分で言うのもおこがましいが

ボクシング界にプロボクサーとして華々しくデビューを果たし、

ついにチャンピオンの座もこの手で勝ち取った。

その後の防衛戦も順調に勝ち続けている。



収入も急激に増え、半年前以前のぼろアパートから現在のマンションに越してきた。

今は何の不自由もない。

誰が見ても幸運な男に映っているはずだ。

そう、俺以外を除いては・・・。



たくさんのダイレクトメールを抱えて、ドアの前に来たとき

一人の女がドアの前にうずくまっていた。

川向ユキ。

今所属しているジムのオーナーの娘だ。

ジムを選択する際。神谷ジムに復帰する話もあったが、丁重にお断りをした。

誰も自分を知らないところで一からやり直したかった。

誰も頼ってはいけない気がしていたのだ。



「お帰りなさい」

「・・・またあんたか」

ユキは時々こうやって俺の帰宅を待っている。

無下にはねつける必要もないから好きなようにさせているが

心を開く必要もないからたいして言葉も交わさない。

そんな俺のどこがいいのかは知らないが、鈍感な自分でも

好意を寄せられていることくらいはわかる。

人を想うという気持ちを自分だって知っているから。。。



「そろそろ帰ってくるかなって思って待ってたの。夕飯まだでしょ?

作る。入っていい?」

「勝手にしろ」

鍵を開けて部屋に入る。

俺は郵便物を無造作にテーブルの上に投げる。

勢いでそれらの数枚はテーブルから落ちた。


「相変わらず機嫌悪いのね。この前も勝ったんでしょ?何が不服?」

「あんたには関係ねえ」

「・・・そうやって人を寄せ付けないところが逆にほっとけないの・・・」

ユキはそういって俺の背中に寄り添ってくる。

「それが用なら帰ってくれないか?疲れてるんだ」

ユキの手を払いのけて俺はソファーにどさっと腰を下ろした。

「・・・私・・・そんなに魅力ない?」

「・・・」

「あなたのためなら何だってするのに!」

「・・・あんたが悪いわけじゃなくて俺には必要がないだけだ」

「・・・しゃあ誰ならいいの?・・・好きな人いるんでしょ?」

「・・・別に」

「うそ!この前ジムで仮眠取ってた時・・・あなた誰かの名前呼んでたわ。うわ言で・・・」

ユキの目を見る。

「・・・覚えがねえな」

「誰なの?硬派なあなたが夢にまで見る女って。

あなたをそんなに苦しめてる女って。私はそんな女にまけない。

あなたと一人でほっておいたりしない!」

「うるせえな。関係ねえだろ!ほっといてくれ」

俺は立ち上がって思わず怒鳴るとユキはひるんだ。

そしてふぅと息をついた。

「・・・夕食の支度するわ・・・」




俺は気を落ち着かせてもう一度ソファーに座った。

バカだ。俺は。

人間なら人間らしく、人間の女を愛せばいいものを…。

そうするために、自ら遠くへ追いやった一人の女を

俺は今もなお思い続けている。

もう4年近くになるだろうか。



人間になるって泣き叫ぶのを冷酷に振り切り、別れを告げたあいつのことを・・・

俺はどうしても忘れることができない。

あいつはその後、姿を消した。

噂によると留学で外国に行ったとも聞いた。

神谷や日野たちに何があったと問い詰められたが俺は何も答えなかったし、

答えられなかった。

神谷もしばらく俺の後をついてきていたがいつしか追いかけてこなくなった。

それでよかった。

あいつを傷つけた報いはなんだって受けようと思った。

自分がどんなに孤独に追いやられてもそうすべきなのだと思った。



俺は想いを打ち切るためにボクシングに没頭した。

俺にはそれしかなかった。

人間として生きていくための手段。

その結果、俺は世に認められチャンピオンと呼ばれるまでに成長した。

だが、ぽっかり空いた心の穴は今もまだ埋まっていない。

埋まるどころか、穴は時間を追うごとに心をじわじわと浸食し

苦しさで息が止まりそうになる。

女とつきあってみたりもした。

だが、誰一人本気で愛することもできなかった。

あいつに敵う女なんていない。いるわけがない。

わかっていた、わかっていたのに・・・。

・・・元気なのだろうか・・・幸せにいてくれているだろうか・・・

そのことだけが気がかりだった。





「・・・江藤蘭世・・・」


久しぶりに聞いたその名前にハッとして俺はユキを見た。

自分が無意識に口にしたのかと思ったが違っていた。

「・・・え・・・?」

「江藤蘭世・・・知り合い?ファンの子かしら。絵葉書。届いてるけど・・・」

ユキが落ちた郵便物を手に取っていた。

ユキが何かまだ言いかけているのも聞かず、俺はユキの手から絵葉書をもぎ取っていた。




   『真壁くんへ

     お元気ですか。お久しぶりですね。

     私は元気にしています。先日実家に戻ってきました。

     真壁くんの活躍を聞いてびっくりしたのと同時に

     とっても嬉しかった。

     いつまでも応援しています。

     P.S. 住所は神谷さんに聞いたの。突然のお手紙ごめんね。

                               江藤蘭世 』




「・・・俊・・・」

俺の目から涙があふれているのを確認するのに俺はかなりの時間を費やしていた。

「・・・もしかしてその子なの?あなたの好きな人って・・・」

「・・・悪いけど帰ってくれないか。一人になりたいんだ」

「・・・わかった・・・もう来ないわ。。。

そんなあなたを見せられたら・・・ね・・・」

ユキがドアを閉める音が遠くの方で聞こえた気がした。




俺はただ、立ち尽くしていた。

こんな簡単な文章なのに俺の心を締め付けていた。


「・・・江藤・・・」

名前を口にするとさらに涙があふれ出た。

あの日以来、ずっと口にするのを避けてきた。

今まで抑えていた感情が言葉と涙と一緒にあふれてくる。

なんて自分は単純でたやすいのだろう。

なかったことになんてできるわけがなかった。

それほど愛していた。

改めて気づかされた想いはやけに素直に自分の心におさまった。


俺は声を殺して一人で泣いた。

初めて泣いた。







次の日は朝早く目が覚めた。

ぼーっとしながら、ゆっくりシャワーを浴び、ゆっくりコーヒーを飲んだ。

溜まっていた掃除も洗濯も済ませた。

そしてもう一度テーブルに置いていた絵葉書を手に取り眺める。

覚えにある彼女の字体。

そう思うだけで胸が軋んだ。


ハンガーにかけっぱなしてあったTシャツに着替え、俺は出かける支度をした。

今更行ってどうするんだ。どんな顔をして会うんだ。

でもこのままじゃ何もできない。何も手につかない。もう限界だった。

あいつだってこの葉書を出すのにかなり勇気を出したはずだ。

俺だって・・・。

よりを戻せるなんて思ってはいない。そんな資格なんてない。

ただあの時ついた嘘を、嘘だったと。

今までの想いを伝えなければと思った。





マンションを出た。

試合に行くときよりも緊張していた。

空を見上げて深呼吸する。

空が青い。



江藤・・・

幸せになっていてくれ・・・。


江藤の家の方に向かおうとした時だった。






俺の前に長い黒髪の女性が立っていた。

息を呑んだ。

見覚えのあるあの長い黒髪。

綺麗だなんて一度も言えなかったけど

抱きしめたときにさらりと腕をかすめる感覚が蘇る。

くすぐったいけれど、やわらかくてさらさらしていて好きだった。


「あっ・・・///」

「・・・江藤・・・?」

「あ、あの・・・お久しぶりです」

ちょっと照れたように肩をすくめる。

昔のしぐさと変わらなくて瞼も胸も熱くなった。


「あの・・・葉書届きましたでしょうか・・・」

江藤が妙に丁寧な敬語でおずおずと尋ねてくる。

何もかも昔どおりで俊はほっと息をもらした。

「・・・あぁ・・・。サンキュ。昨日見た。・・・ビックリしたよ」

「ご、ごめんね突然。あの・・・その・・・ちょっと時間ないかな?

少しお話したいな~っと・・・あ、でも出かけるところだよね」

ハッと気づいたように慌てだす江藤に愛しさがあふれる。

俺のことなんてどうでもいいのに、いつだって俺優先で・・・。


「俺も・・・お前んち行こうとしてたんだ」

「え?」

ああ・・・きょとんとした顔も・・・何も変わっていない。

ただ少し大人になって、きれいになった。

「俺のマンション、そこなんだ。・・・来るか?」

「・・・いいの?」

「ああ」






「どうぞ」

「おじゃまします」

「コーヒーでいいか?」

「あ、うん・・・きれいにしてるのね」

「荷物が少ねえからな。適当に座れよ」

「・・・ありがとう・・・あっ!これチャンピオンベルト?

すっご~い!私ずっと祈ってた・・・あっ・・・」

はっとして江藤が口を閉ざす。そんな姿を見て切なくなる。

「ボクシングしかしてこなかったから・・・お前は・・・その元気にしてたのか?」

「・・・うん・・・ずっと・・・魔界にいたの。みんなはこっちにいたけど私だけ。

いろいろ勉強したわ。保育士とか。。。資格もとったのよ」

すごいでしょーと言って江藤はウィンクした。

「そうか。元気そうだからほっとしたよ。俺が心配できる筋合いじゃねえけど」

「・・・まあ。人間界で生きていくためには手に職がなきゃね」

「もう・・・魔界には戻らねえのか?」

「・・・うん」

江藤は口を濁した。

「・・・?どうした?」

「真壁くん・・・彼女いるの?」

「・・・お前は?」

お互いに聞きあうが二人とも黙り込んだままだったが

ほどなくして蘭世が口を開いた。



「魔界にはもう戻らない。戻れない」

「・・・?」

「今日、話をしたかったのは・・・そのことなんだけどね・・・」



しばしの沈黙を破って意を決したように江藤が話し出した。

「私がもう一度人間界に戻ってきたのは・・・もう一度・・・

もう一度・・・真壁くんと向き合うためなの・・・」

「・・・江藤」

「人間としてもう一度出会うため・・・」

「・・・!?・・・人間として?・・・お前、ま、まさか・・・」

俺はじっと江藤を見つめた。

江藤も顔を上げて俺を見ていた。だあ、以前のような少女の目ではない。

何か大きな壁を乗り越え、何かを決意した大人の女性の目だった。

思わず俺は引き込まれそうになる。



「いろんなこと考えてた。

真壁くんのこと、私のこと、家族のこと、友人のこと、過去のこと、

そして未来のこと・・・。死のうかとも思ったりした。

でも私、死ねないし・・・」

江藤が苦笑する。

俺は黙って聞いていた。

「魔界に行ったのは、魔界人としての自分を見つめなおすためだった。

魔界人には魔界人らしい生き方があるのかもしれないって。

真壁くんとは人生が交差しただけで、運命の人は他にいるのかもしれないしって。」

俺の眉が無意識にびくっと動いた。

「・・・でも・・・何も変わらなかった。3年が過ぎていたわ。

でも何も変わらない。悲しさも、寂しさも、苦しさも・・・」

あの日から立ち止まったまま・・・永遠の命なんて私にはもう酷なものでしかない。

それなら、人間として限りある命を大切にして

大好きな真壁くんと同じ位置に立ちたかった。

一緒にいれなくてもいい。ただ同じ立場にいることだけが私の幸せだと気付いた。

人間になれば真壁くんの気持ちもわかりそうな気がした。

同じ立場で向き合いたかった。だから資格もとったわ。真壁くんに頼らなくてもいいように、

一人でも生きていけるように・・・。そしてやっと決心がついたから葉書を出しました。

そして、今日ここに来たの・・・」



「・・・江藤・・・」

言葉にできずにいた。なんといっていいかわからなかった。

「真壁くん・・・。私はやっぱりあなたが好きです。これでも忘れようとして

がんばったのよ。でも・・・できなかった。

誤解しないでね。責任とってもらおうと思ってきたわけじゃないの。

一緒にいてなんて言わない。でも気持ちだけは知ってほしかった。

もう気持ちを押さえることなんてできない・・・」

江藤の目から涙があふれでる。

「あれ?やだな。今日は絶対泣かないって決めてきたのに・・・ごめんなさい」

無理に涙を拭こうとした江藤を俺は抱きしめていた。







「もういい。泣くな・・・。抑えられないのは俺も同じなんだ」

「・・・真壁くん」

涙いっぱいの瞳で江藤は俺を見ていた。

ずっと脳裏に焼き付いていた瞳、忘れられなかった瞳・・・

それが今、目の前にあり、俺をじっと見つめている。

大きな瞳の中に映る俺がいる。



「・・・お前のことばかり考えてた。気持ちを打ち消すためにボクシングに

入れ込んでいたけれど、隙間は 何をどうやっても埋まらなかった。

あのとき、お前を手放したことを、あのとき思わずついた嘘を死ぬほど後悔したよ。

そう、俺は実際、死んでるのと同じだった。お前がいないだけで、

たった一人お前がいないだけで・・・」

そう吐露した後、俺は江藤の唇をキスで塞いでいた、

懐かしい感触、今でもはっきり覚えていた。そうだ、この唇だ。。。

長いキスを止めて、もう一度江藤を抱きしめる。

「・・・許してほしいなんて今更俺が言えた義理じゃないが、・・・

もし、・・・もしお前があの日のことを許してくれるなら、

お前を人間にしてしまった俺をまだ好きでいてくれるなら・・・

これからはずっと俺のそばにいてくれ。

俺がお前を守るから。命つきるまでずっと守ってみせるから・・・」

「・・・真壁くん・・・いいの?私・・・昔みたいに・・・

真壁くんのそばにいていいの?」

「・・・ああ。お前でないとだめなんだ。お前がいないと俺は・・・」

「・・・迷惑って言ったのは・・・」

「嘘に決まってる!そう言うしか思いつかなかった・・・

ごめん・・・もっと他に選択肢はあったはずなのに」

江藤が腕の中で震えた。

嗚咽しながら泣いていた。

俺は彼女が泣きやむまでどれだけかかろうとも

この腕を解く気はなかった。

「・・・よかった・・・ありがとう・・・真壁くん・・・」

消え入りそうな江藤の声が体を通して伝わってきた。

今なら手に取るようにわかる。

能力がなくなっても彼女を幸せにできる方法はきっとあったんだ。

遠回りをした。しかしこの遠回りをしたからこそ

初めて幸せだと思えたんだと。





1年後。

俺は今年も防衛戦に勝利した。

試合後のインタビューははじめて心地よく思った。

そしてはじめてプライベートな話を公に打ち明けた。

会場は騒然としていた。



翌日のスポーツ紙には堂々と一面に飾られていた。

『フェザー級チャンピオン真壁俊電撃結婚!!

勝利の美酒をあびる!

お相手は学生時代の同級生!』

浮いた話が全くなかった俺だ。突然の報告に世間はざわついた。

俺は相変わらず無口だったが、俺の顔には確かに笑顔が増えた。

あいつがそばにいるから。。。



<END>



+あとがき+

初期のころの作品なのでおかしなところも多く、
直せそうなところは即席で直しました。
打ち込んでてめちゃ長っ!と感じた作品です(笑)

しかしよく語る王子ですこと。
自分が勝手に語らせてるんですが…^^;






















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