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心の行方

俊×蘭世

高校以降のパラレルです






暑い夏の日だった。

ジムから帰ってきた俺はポストの中の郵便物の束を取り出し、

マンションの中に入ろうとしていた。



高校を卒業して1年半。

正式にボクシングジムに入り、プロボクサーとしての契約をした。

そして自分で言うのもおこがましいが

ボクシング界にプロボクサーとして華々しくデビューを果たし、

ついにチャンピオンの座もこの手で勝ち取った。

その後の防衛戦も順調に勝ち続けている。



収入も急激に増え、半年前以前のぼろアパートから現在のマンションに越してきた。

今は何の不自由もない。

誰が見ても幸運な男に映っているはずだ。

そう、俺以外を除いては・・・。



たくさんのダイレクトメールを抱えて、ドアの前に来たとき

一人の女がドアの前にうずくまっていた。

川向ユキ。

今所属しているジムのオーナーの娘だ。

ジムを選択する際。神谷ジムに復帰する話もあったが、丁重にお断りをした。

誰も自分を知らないところで一からやり直したかった。

誰も頼ってはいけない気がしていたのだ。



「お帰りなさい」

「・・・またあんたか」

ユキは時々こうやって俺の帰宅を待っている。

無下にはねつける必要もないから好きなようにさせているが

心を開く必要もないからたいして言葉も交わさない。

そんな俺のどこがいいのかは知らないが、鈍感な自分でも

好意を寄せられていることくらいはわかる。

人を想うという気持ちを自分だって知っているから。。。



「そろそろ帰ってくるかなって思って待ってたの。夕飯まだでしょ?

作る。入っていい?」

「勝手にしろ」

鍵を開けて部屋に入る。

俺は郵便物を無造作にテーブルの上に投げる。

勢いでそれらの数枚はテーブルから落ちた。


「相変わらず機嫌悪いのね。この前も勝ったんでしょ?何が不服?」

「あんたには関係ねえ」

「・・・そうやって人を寄せ付けないところが逆にほっとけないの・・・」

ユキはそういって俺の背中に寄り添ってくる。

「それが用なら帰ってくれないか?疲れてるんだ」

ユキの手を払いのけて俺はソファーにどさっと腰を下ろした。

「・・・私・・・そんなに魅力ない?」

「・・・」

「あなたのためなら何だってするのに!」

「・・・あんたが悪いわけじゃなくて俺には必要がないだけだ」

「・・・しゃあ誰ならいいの?・・・好きな人いるんでしょ?」

「・・・別に」

「うそ!この前ジムで仮眠取ってた時・・・あなた誰かの名前呼んでたわ。うわ言で・・・」

ユキの目を見る。

「・・・覚えがねえな」

「誰なの?硬派なあなたが夢にまで見る女って。

あなたをそんなに苦しめてる女って。私はそんな女にまけない。

あなたと一人でほっておいたりしない!」

「うるせえな。関係ねえだろ!ほっといてくれ」

俺は立ち上がって思わず怒鳴るとユキはひるんだ。

そしてふぅと息をついた。

「・・・夕食の支度するわ・・・」




俺は気を落ち着かせてもう一度ソファーに座った。

バカだ。俺は。

人間なら人間らしく、人間の女を愛せばいいものを…。

そうするために、自ら遠くへ追いやった一人の女を

俺は今もなお思い続けている。

もう4年近くになるだろうか。



人間になるって泣き叫ぶのを冷酷に振り切り、別れを告げたあいつのことを・・・

俺はどうしても忘れることができない。

あいつはその後、姿を消した。

噂によると留学で外国に行ったとも聞いた。

神谷や日野たちに何があったと問い詰められたが俺は何も答えなかったし、

答えられなかった。

神谷もしばらく俺の後をついてきていたがいつしか追いかけてこなくなった。

それでよかった。

あいつを傷つけた報いはなんだって受けようと思った。

自分がどんなに孤独に追いやられてもそうすべきなのだと思った。



俺は想いを打ち切るためにボクシングに没頭した。

俺にはそれしかなかった。

人間として生きていくための手段。

その結果、俺は世に認められチャンピオンと呼ばれるまでに成長した。

だが、ぽっかり空いた心の穴は今もまだ埋まっていない。

埋まるどころか、穴は時間を追うごとに心をじわじわと浸食し

苦しさで息が止まりそうになる。

女とつきあってみたりもした。

だが、誰一人本気で愛することもできなかった。

あいつに敵う女なんていない。いるわけがない。

わかっていた、わかっていたのに・・・。

・・・元気なのだろうか・・・幸せにいてくれているだろうか・・・

そのことだけが気がかりだった。





「・・・江藤蘭世・・・」


久しぶりに聞いたその名前にハッとして俺はユキを見た。

自分が無意識に口にしたのかと思ったが違っていた。

「・・・え・・・?」

「江藤蘭世・・・知り合い?ファンの子かしら。絵葉書。届いてるけど・・・」

ユキが落ちた郵便物を手に取っていた。

ユキが何かまだ言いかけているのも聞かず、俺はユキの手から絵葉書をもぎ取っていた。




   『真壁くんへ

     お元気ですか。お久しぶりですね。

     私は元気にしています。先日実家に戻ってきました。

     真壁くんの活躍を聞いてびっくりしたのと同時に

     とっても嬉しかった。

     いつまでも応援しています。

     P.S. 住所は神谷さんに聞いたの。突然のお手紙ごめんね。

                               江藤蘭世 』




「・・・俊・・・」

俺の目から涙があふれているのを確認するのに俺はかなりの時間を費やしていた。

「・・・もしかしてその子なの?あなたの好きな人って・・・」

「・・・悪いけど帰ってくれないか。一人になりたいんだ」

「・・・わかった・・・もう来ないわ。。。

そんなあなたを見せられたら・・・ね・・・」

ユキがドアを閉める音が遠くの方で聞こえた気がした。




俺はただ、立ち尽くしていた。

こんな簡単な文章なのに俺の心を締め付けていた。


「・・・江藤・・・」

名前を口にするとさらに涙があふれ出た。

あの日以来、ずっと口にするのを避けてきた。

今まで抑えていた感情が言葉と涙と一緒にあふれてくる。

なんて自分は単純でたやすいのだろう。

なかったことになんてできるわけがなかった。

それほど愛していた。

改めて気づかされた想いはやけに素直に自分の心におさまった。


俺は声を殺して一人で泣いた。

初めて泣いた。







次の日は朝早く目が覚めた。

ぼーっとしながら、ゆっくりシャワーを浴び、ゆっくりコーヒーを飲んだ。

溜まっていた掃除も洗濯も済ませた。

そしてもう一度テーブルに置いていた絵葉書を手に取り眺める。

覚えにある彼女の字体。

そう思うだけで胸が軋んだ。


ハンガーにかけっぱなしてあったTシャツに着替え、俺は出かける支度をした。

今更行ってどうするんだ。どんな顔をして会うんだ。

でもこのままじゃ何もできない。何も手につかない。もう限界だった。

あいつだってこの葉書を出すのにかなり勇気を出したはずだ。

俺だって・・・。

よりを戻せるなんて思ってはいない。そんな資格なんてない。

ただあの時ついた嘘を、嘘だったと。

今までの想いを伝えなければと思った。





マンションを出た。

試合に行くときよりも緊張していた。

空を見上げて深呼吸する。

空が青い。



江藤・・・

幸せになっていてくれ・・・。


江藤の家の方に向かおうとした時だった。






俺の前に長い黒髪の女性が立っていた。

息を呑んだ。

見覚えのあるあの長い黒髪。

綺麗だなんて一度も言えなかったけど

抱きしめたときにさらりと腕をかすめる感覚が蘇る。

くすぐったいけれど、やわらかくてさらさらしていて好きだった。


「あっ・・・///」

「・・・江藤・・・?」

「あ、あの・・・お久しぶりです」

ちょっと照れたように肩をすくめる。

昔のしぐさと変わらなくて瞼も胸も熱くなった。


「あの・・・葉書届きましたでしょうか・・・」

江藤が妙に丁寧な敬語でおずおずと尋ねてくる。

何もかも昔どおりで俊はほっと息をもらした。

「・・・あぁ・・・。サンキュ。昨日見た。・・・ビックリしたよ」

「ご、ごめんね突然。あの・・・その・・・ちょっと時間ないかな?

少しお話したいな~っと・・・あ、でも出かけるところだよね」

ハッと気づいたように慌てだす江藤に愛しさがあふれる。

俺のことなんてどうでもいいのに、いつだって俺優先で・・・。


「俺も・・・お前んち行こうとしてたんだ」

「え?」

ああ・・・きょとんとした顔も・・・何も変わっていない。

ただ少し大人になって、きれいになった。

「俺のマンション、そこなんだ。・・・来るか?」

「・・・いいの?」

「ああ」






「どうぞ」

「おじゃまします」

「コーヒーでいいか?」

「あ、うん・・・きれいにしてるのね」

「荷物が少ねえからな。適当に座れよ」

「・・・ありがとう・・・あっ!これチャンピオンベルト?

すっご~い!私ずっと祈ってた・・・あっ・・・」

はっとして江藤が口を閉ざす。そんな姿を見て切なくなる。

「ボクシングしかしてこなかったから・・・お前は・・・その元気にしてたのか?」

「・・・うん・・・ずっと・・・魔界にいたの。みんなはこっちにいたけど私だけ。

いろいろ勉強したわ。保育士とか。。。資格もとったのよ」

すごいでしょーと言って江藤はウィンクした。

「そうか。元気そうだからほっとしたよ。俺が心配できる筋合いじゃねえけど」

「・・・まあ。人間界で生きていくためには手に職がなきゃね」

「もう・・・魔界には戻らねえのか?」

「・・・うん」

江藤は口を濁した。

「・・・?どうした?」

「真壁くん・・・彼女いるの?」

「・・・お前は?」

お互いに聞きあうが二人とも黙り込んだままだったが

ほどなくして蘭世が口を開いた。



「魔界にはもう戻らない。戻れない」

「・・・?」

「今日、話をしたかったのは・・・そのことなんだけどね・・・」



しばしの沈黙を破って意を決したように江藤が話し出した。

「私がもう一度人間界に戻ってきたのは・・・もう一度・・・

もう一度・・・真壁くんと向き合うためなの・・・」

「・・・江藤」

「人間としてもう一度出会うため・・・」

「・・・!?・・・人間として?・・・お前、ま、まさか・・・」

俺はじっと江藤を見つめた。

江藤も顔を上げて俺を見ていた。だあ、以前のような少女の目ではない。

何か大きな壁を乗り越え、何かを決意した大人の女性の目だった。

思わず俺は引き込まれそうになる。



「いろんなこと考えてた。

真壁くんのこと、私のこと、家族のこと、友人のこと、過去のこと、

そして未来のこと・・・。死のうかとも思ったりした。

でも私、死ねないし・・・」

江藤が苦笑する。

俺は黙って聞いていた。

「魔界に行ったのは、魔界人としての自分を見つめなおすためだった。

魔界人には魔界人らしい生き方があるのかもしれないって。

真壁くんとは人生が交差しただけで、運命の人は他にいるのかもしれないしって。」

俺の眉が無意識にびくっと動いた。

「・・・でも・・・何も変わらなかった。3年が過ぎていたわ。

でも何も変わらない。悲しさも、寂しさも、苦しさも・・・」

あの日から立ち止まったまま・・・永遠の命なんて私にはもう酷なものでしかない。

それなら、人間として限りある命を大切にして

大好きな真壁くんと同じ位置に立ちたかった。

一緒にいれなくてもいい。ただ同じ立場にいることだけが私の幸せだと気付いた。

人間になれば真壁くんの気持ちもわかりそうな気がした。

同じ立場で向き合いたかった。だから資格もとったわ。真壁くんに頼らなくてもいいように、

一人でも生きていけるように・・・。そしてやっと決心がついたから葉書を出しました。

そして、今日ここに来たの・・・」



「・・・江藤・・・」

言葉にできずにいた。なんといっていいかわからなかった。

「真壁くん・・・。私はやっぱりあなたが好きです。これでも忘れようとして

がんばったのよ。でも・・・できなかった。

誤解しないでね。責任とってもらおうと思ってきたわけじゃないの。

一緒にいてなんて言わない。でも気持ちだけは知ってほしかった。

もう気持ちを押さえることなんてできない・・・」

江藤の目から涙があふれでる。

「あれ?やだな。今日は絶対泣かないって決めてきたのに・・・ごめんなさい」

無理に涙を拭こうとした江藤を俺は抱きしめていた。







「もういい。泣くな・・・。抑えられないのは俺も同じなんだ」

「・・・真壁くん」

涙いっぱいの瞳で江藤は俺を見ていた。

ずっと脳裏に焼き付いていた瞳、忘れられなかった瞳・・・

それが今、目の前にあり、俺をじっと見つめている。

大きな瞳の中に映る俺がいる。



「・・・お前のことばかり考えてた。気持ちを打ち消すためにボクシングに

入れ込んでいたけれど、隙間は 何をどうやっても埋まらなかった。

あのとき、お前を手放したことを、あのとき思わずついた嘘を死ぬほど後悔したよ。

そう、俺は実際、死んでるのと同じだった。お前がいないだけで、

たった一人お前がいないだけで・・・」

そう吐露した後、俺は江藤の唇をキスで塞いでいた、

懐かしい感触、今でもはっきり覚えていた。そうだ、この唇だ。。。

長いキスを止めて、もう一度江藤を抱きしめる。

「・・・許してほしいなんて今更俺が言えた義理じゃないが、・・・

もし、・・・もしお前があの日のことを許してくれるなら、

お前を人間にしてしまった俺をまだ好きでいてくれるなら・・・

これからはずっと俺のそばにいてくれ。

俺がお前を守るから。命つきるまでずっと守ってみせるから・・・」

「・・・真壁くん・・・いいの?私・・・昔みたいに・・・

真壁くんのそばにいていいの?」

「・・・ああ。お前でないとだめなんだ。お前がいないと俺は・・・」

「・・・迷惑って言ったのは・・・」

「嘘に決まってる!そう言うしか思いつかなかった・・・

ごめん・・・もっと他に選択肢はあったはずなのに」

江藤が腕の中で震えた。

嗚咽しながら泣いていた。

俺は彼女が泣きやむまでどれだけかかろうとも

この腕を解く気はなかった。

「・・・よかった・・・ありがとう・・・真壁くん・・・」

消え入りそうな江藤の声が体を通して伝わってきた。

今なら手に取るようにわかる。

能力がなくなっても彼女を幸せにできる方法はきっとあったんだ。

遠回りをした。しかしこの遠回りをしたからこそ

初めて幸せだと思えたんだと。





1年後。

俺は今年も防衛戦に勝利した。

試合後のインタビューははじめて心地よく思った。

そしてはじめてプライベートな話を公に打ち明けた。

会場は騒然としていた。



翌日のスポーツ紙には堂々と一面に飾られていた。

『フェザー級チャンピオン真壁俊電撃結婚!!

勝利の美酒をあびる!

お相手は学生時代の同級生!』

浮いた話が全くなかった俺だ。突然の報告に世間はざわついた。

俺は相変わらず無口だったが、俺の顔には確かに笑顔が増えた。

あいつがそばにいるから。。。



<END>



+あとがき+

初期のころの作品なのでおかしなところも多く、
直せそうなところは即席で直しました。
打ち込んでてめちゃ長っ!と感じた作品です(笑)

しかしよく語る王子ですこと。
自分が勝手に語らせてるんですが…^^;






















拍手[18回]

Look for

俊×蘭世 高校時代

お誕生日記念SS





蘭世は汗がこめかみを流れ落ちるのも気にせず、炎天下の中、息を切らして走っていた。




+++++



巷では、夏休みに入ったので、走っている間にも、普段この時間ではあまり

お目にかからない子どもたちに次々と出くわす。

小学生だろう。

数人でキャイキャイと騒ぎながら、道いっぱいになって歩いている。



しかし、そんな彼らたちも、さすがの蘭世の勢いにはかなり驚いたようで

思わず一斉にパッと道を開け、その間を走り抜けた蘭世の後姿をぽかんと

口を開けて見送っていた。


「何だ?・・・今のねえちゃん」

「・・・さあ・・・」



そんな小学生たちには目もくれる余裕もないほど、蘭世の気は逸っていた。

白のTシャツにジャージ姿という軽装で何も持たないまま蘭世は走っていた。


ただ、一つだけ、銀色の鍵だけが上下に揺れるポケットの中で

存在を大きく知らしめていた。






(・・・・真壁くん・・・・はぁはぁ・・・一体どうしたの・・?・・・)




走る蘭世の心の中は、ただその想いだけが占めていた。


あの角を曲がれば、俊のアパートが見える。

蘭世は息をするのも忘れるほど、ただ、その面影だけを追っていた。



+++++


蘭世はようやくついたアパートを見据え、カンカンカン…っとリズムよく

鉄製の、少し錆びた階段を駆け上がった。



ドンドンドン・・・

「真壁くん!!いるの?・・・真壁くんっ!」

勢いのまま大きくドアをたたき、蘭世の中に向かって声をかけたが、

返事はもとより、物音すら聞こえない。


(まさか。。。倒れてるんじゃ・・・)



蘭世は嫌な予感がして、右手を自分のジャージのポケットにつっこんで、

もってきた鍵をつかんだ。


つい先日、俊がくれた合鍵・・・。

まだ作り立てで新しく、強い日差しにキラリと光った。

まさか、こんなに早く、こんな状況で使うことになろうとは・・・。



あせってなかなか鍵穴に入らないのを、ようやく成功させて、蘭世はドアを開け、

部屋の中に入り込んだ。

締め切ったままで、俊のにおいが充満したその部屋には、当事者の姿は

見つけられなかった。

「・・・真壁くん・・・?」

誰もいないのはわかっていたが、とりあえず名前を呼んでみた。

だが、当然、返事は・・・ない。


靴を脱いで部屋に上がり、周りを見回してみたが、結果は同じだった。

丸い小さな食卓の上に何かを飲み干した後のグラスだけが、何も語ることのないまま

置かれている。

ボクシングの用意はしてあったが、それはそのまま置かれていた。

(学校にもジムにも行ってないってこと?)

(真壁くん・・・どこ行っちゃったの・・・?)

蘭世ははぁはぁと息を整えながらも、誰もいない部屋を黙って見つめていた。





+++++


蘭世はトボトボと半分放心状態で、思わず飛び出てきた学校へと戻っていた。

先ほどはそうは思わなかったが、今は強い日差しが一層熱く感じられる。

額の汗を手の甲でぬぐいながら、蘭世ははぁとため息をついた。




+++++



今朝もいつもと同じようにボクシング部の練習が予定されていた。

夏休みに入ってから、午前中は部活の予定が組まれていたのだ。

朝9時から始まるその練習に、

今朝、

俊は姿を見せなかったのである。




部長である俊が無断で部活を休むなんてことは、まずありえない。

今までも、そんなことは一度たりともなかったし、

人一倍、熱心に取り組んでいたのは言うまでもない。


4月に入ってきた1年の新入部員たちにとっても部長のその姿は

とてもいいお手本であり、目標であった。



それほど厳しい部長が

10時になっても11時になってもこなかったのである。




最初は寝坊でもしたのだろうと思っていたものの、

さすがにこれだけ遅れると、やはり気になってくる。


蘭世は、先日一緒に買ったばかりの携帯で電話をしてみたが

電波すらつながらない。

仕方がないのでメールだけ送って携帯を閉じた。




「どうしたのかな…真壁くん」

蘭世は、タオルを抱えて戻ってきた曜子に声をかけた。


「めずらしいわよね・・・ちょっと私見てこようかしら」

曜子はスクっと立ち上がって言った。

「えっ!?ちょっ・・・神谷さん、ダメ!」

蘭世は思わず曜子の腕をつかんで引き留めた。

「えーい!離しなさいよ!」



またいつもの小競り合いが始まろうとしているところに日野が寄ってきた。

「まあまあ、落ち着けよ、二人とも。。。それにしても真壁のヤツ、

どーしちまったんだろうな~?もしかして倒れてたりして・・・」



「「ええっ!?」」

つかみ合っていた蘭世と曜子は、日野の言葉にぴたりと動きを止める。

(た、たおれてる・・・?真壁くんが・・・?)

「真壁くん・・・」

蘭世はその瞬間、顔を青ざめさせたかと思うと

ババババっとカバンの中から、鍵を取り出してポケットにつっこみ、

そして部室から飛び出していった。




「えっ!?ちょっと!待ちなさい!蘭世ぇ~~~~!」

追いかけようとする曜子を日野は腕をとって止めた。

「まあまあ。二人で行ってもしょうがないだろ?ここは江藤に任せようぜ」

「な、何言ってんのよ!そんなこと誰が許すってのよ!」

「でも、マネージャーが二人とも行っちゃったらあいつらどうすんの?」

そういって日野は呆然とみていたまだまだ頼りない1年生たちを親指で指した。



「う・・・もう!私だって俊が心配なのよ!」

「わかってるよ。わかってるけどさ・・・」

そういって日野はポンと曜子の肩に手を置いた。

「・・・わかったわよ。今日のところは大目に見るわよ・・・日野くん、一生恨むからね」

曜子は日野を指さしながら睨み、そして外に出て行った。




曜子は追いかけようとしたのを日野が止めたことに、本当は少しほっとしていた。

止めなかったら追いかけている。

だが、追いかけてしまったら、もっと辛い光景をみるかもしれなかったということに

わずかながら気づいていた。

(蘭世が持ってったの・・・鍵だった・・・)

曜子は蘭世の走っていった方向をしばらく眺めていたが

ブロック塀に背中を預けると、視線を地面に移し

こみあげてくる何かをぐっと堪えた。




+++++  +++++  +++++




(真壁くんのことだもん、事故ってことはないと思うんだけど・・・)

蘭世ははぁとまた深いため息をついて

ようやく戻ってきた部室のドアをガチャリと開けた。


部室には日野だけがTシャツと短パンに着替えた状態で残っていた。

「よぉ。どうだった?」

日野は頭からかぶった水をタオルで拭きながら、

入ってきた蘭世に声をかけた。

「・・・」

蘭世は無言で目を伏せながら、首を横に振った。


「・・・みんなは?」

室内を見渡して蘭世は聞いた。

「さっき、みんな帰ったよ。時間も時間だし」

日野の言葉に蘭世は左腕にはめた夏仕様の時計を見る。

1時を少し回っていた。

「・・・もうこんな時間・・・」

「とりあえず俺も帰るけど・・・お前も帰れよ」

「・・・ん・・・」

「真壁のことだからさ、急にバイトでも入ったんじゃねえ?

あんま心配しすぎんなよ」

「・・・うん。ありがと・・・」




+++++  +++++  +++++



日野と別れて蘭世はさらに高く上った太陽の下を

さらにトボトボと歩いていた。

俊の姿を思い出すと胸が痛んだ。


(また・・・どこか行っちゃったんじゃ・・・)

蘭世は過去の出来事がわずかにトラウマとなって心に残っていた。


(私、何かしなかった・・・?)

記憶を手繰り寄せても、最近の俊の姿は、いつも優しい笑顔だった。

一緒に携帯を買い、合鍵もくれ・・・いなくなる理由も見つからない。

(バイト・・・なのかな・・・)

それならそれで連絡ぐらい・・・と思うものの、

いちいち報告しなければいけない間柄ではないのかも・・・

と蘭世は一気に自信を落とす。



かばんから蘭世は携帯を取り出した。

色違いで買った真新しい携帯の一番最初に俊の番号が登録してあった。

試しに撮った写真の中に、少し照れた俊の笑顔がある。

それを眺めていた蘭世の手の中で

その瞬間、携帯は電子音を立てながらバイブレーションが倒れた。

画面に「真壁くん」と出る。



蘭世は思わず、携帯を落としそうになりながらも着信を受けた。

「ま、真壁くん!?」

『よぉ』

「よぉじゃないわよ!今どこにいるの!?」

『・・・お前んち』

「・・・は?」

『いいから、帰ってこい』

「・・・はぁ・・・?」

『んじゃな』

俊はそう言い残すと電話はプチっと途切れた。

「ちょ、真壁くん!?・・・切れてる・・・もぅ・・・」

(でも・・・よかった。事故とかじゃなくて・・・)

蘭世はほっと安堵のため息をもらし、携帯を閉じて胸に当てた。






+++++  +++++  +++++



「ただいま!!真壁くん!?」

蘭世は勢いよく家に飛び込んできて、「お帰り」の返事も待たずにリビングの扉を開けた。

「・・・真壁くんは!?」

蘭世はその部屋に俊がいないことを確認すると椎羅に尋ねた。

「もう、なんなの蘭世。落ち着きなさいよ。

 蘭世の部屋にいるわ。ちょうどよかった。ハイ、これもってって」

そういうと椎羅はサンドイッチとジュースを乗せたトレイを蘭世の両手に渡した。



逸る気持ちに反して、ジュースをこぼさないようにそぉ~っと階段を上がる。

そして部屋の前でふぅと息を吐いた。

まるで、何年も会っていなかった恋人に会うような瞬間。



「真壁くん・・・?入るよ?」

そういって蘭世は部屋の扉を開けた。

そこにはずっと追い求めていた俊の姿があった。

俊は窓のそばに立っていて、蘭世の気配を感じ取ると振り返った。


「よぉ」

「・・・だから、「よぉ」じゃないんだってば。・・・どこ・・・行ってたの?

 探したんだよ?心配だってしたんだから・・・」

蘭世は押さえていた思いを涙と一緒にあふれさせた。

俊は蘭世の両手からお盆をとるとテーブルに置いて、

もう一度蘭世の方に振り返ると右手でそっと蘭世の瞳から涙を拭いた。



「悪かったな。連絡もしねぇで・・・」

「っく・・・っく」

蘭世は嗚咽が止まらない。

「実はさ、魔界に行ってたんだよ」

「・・・えっ?・・・魔・・・界?」

蘭世は泣くのをやめて、きょとんとした顔で俊を見た。


「これを取りに行ってたんだ・・・」

そういって俊は小さな、それでいて綺麗な球形の水晶がついたペンダントを

ポケットから取り出した。

普通の水晶に見えたが、それはしばらくすると、蘭世と俊の間で、

そして俊の手の中でキラキラと輝き始めた。



「・・・なに?・・・これ・・・きれい・・・」

「恋人の森の池からとれる水の結晶なんだってよ」

「恋人の森の?」

蘭世は何度か訪れたことのあるあの景色を思い出した。

その時その時、それぞれの想いを抱えながら訪れた場所。

「ああ、ちょうどこの時期の月夜の明かりが、水に反射すると、

それが、こんな風に丸く固まって、宙に浮かぶらしい」

「宙に?でも・・・そんなこと、どうして真壁くんが知ってるの?」

「・・・前にお袋から聞いたんだ。そして、これは・・・その・・・

お守りになるっていうか・・・」

俊は次第に赤くなりながら声を小さくした。

「いや、すぐ帰ってくるつもりだったんだ。でもせっかくだからと思って

城に寄ったら、アロンのヤツに飲まされちまって・・・

そのまま、寝ちゃってさ・・・

気がついたらさっき・・・悪かったよ」

「そうだったの・・・でもなんでそれがいるの?」

蘭世はふんふんと俊の話を聞きながら尋ねた。

「はあ!?お前なぁ、何のために行ったと思ってんだ?」

「えっ!?な、何?」

「・・・マジで言ってんのかよ?おちょくってるなら殴るぞ」

「な、何よ。おちょくってなんか・・・何なの?」

「・・・信じらんねぇ・・・今日は何の日だ?」

「えっ?今日・・・?・・・・・あっ・・・私の・・・たんじょうび・・・?」

俊ははぁ~~と大きく息を吐いてがっくりと肩を落とした。

「自分の誕生日忘れるかよ。この前まで、えらくアピールしてやがったくせに・・・」

「ご、ごめん・・・だって真壁くんがいないからそれどころじゃなくって・・・」

「まぁ・・・それは悪かったけどよ・・・」

俊は半分詫び顔、半分呆れ顔で蘭世を見た。





そして、ふっと顔を笑顔に戻して、腕を回し、そのペンダントを蘭世の首につけた。

「誕生日・・・おめでとう・・・蘭世」

そういって俊は潤んで揺れる大きな瞳を見つめて笑った。

「真壁くん・・・うれしい・・・ありがとう・・・」

笑顔でもあふれてくる蘭世の涙を、俊は唇で受け止めると

その唇を蘭世のもとに寄せた。

そして両手を華奢な恋人の背中に回し、優しく深く抱きしめた。




<END>







+あとがき+

自分で書いておいて何なんですが
蘭世ちゃんの取り乱しよう、イタイっすよね^^;
や、ほんと書いた本人が言うなって話ですが…。

久々に作業したらやり方を忘れてしまっていました。




拍手[16回]

告白

俊×蘭世 高校時代







(さっ、真壁くんの顔見にいこ♪)

昼休み。。。

少しでも俊と離れているのが寂しい。

(何で真壁くんと同じクラスじゃないのよぉ)

思い立ったら即行動。

蘭世は俊のクラスを目指して駆け出す。



蘭世が俊の教室に近づいたとき、入り口にいた女生徒がちょうどタイミングよく言葉を発した。

「真壁くーん」

蘭世はドキリとして立ち止まる。

(え?)

蘭世は思わず廊下の柱の陰に隠れた。

そっと覗くと俊とその女生徒が入口のところで話している。

蘭世のところまで声は届いてこなかったが、やたらと二人が楽しそうに見えた。

(あの子誰なんだろ・・・真壁くんが知らない女の子と話してるのって

 そういえば初めて見るかも・・・)

蘭世の胸がチクリと痛む。

そうこうしているうちに二人の話が終わったようでその女生徒がじゃあと手を振って入口から

離れた。

(あっ。。。こっちに来ちゃう)

蘭世はそそくさとその場から離れた。

そしてそのまま俊の教室には向かわずに自分の教室に戻った。

胸の奥がじんわりと重い。

ただ話してただけなのに、俊のことを信じているはずなのに

悲しい気持ちがどんどんと膨らんでいく。

好きだけど、私、好きっていってもらったことない・・・。

じんわりと重かっただけの胸はまたたくまに鉛のような重さになった。




放課後

今日は部活もない。

さっきからのもやもやした気持ちを押さえながら蘭世は考える。

(そうだ!気分転換に真壁くん誘って買い物でも行こう!

お昼間のこともさらっと聞いちゃったりして☆)

そして蘭世はふたたび俊のクラスに向かった。



「あっ、真壁くん、帰ろ♪今日さ・・・」

「・・・悪い、江藤、ちょっと用があるんだ。先に帰ってくれ・・・」

俊が蘭世の言葉をさえぎって言った。

(え・・・!?)

じゃあなと言って俊は教室を出ていく。

「あ・・・真壁くん・・・行っちゃった」

(あ~あ・・・また気分が沈んじゃった・・・しょうがない。かえろっかな・・・)

そう思いながら歩き出した蘭世はふと思い出す。

(あ・・・本返さなきゃいけなかったんだ・・・)

そして蘭世は振り返って図書館に向かって歩き出した。


重い心は晴れないままで蘭世は歩いていく。

(こら、らしくないぞ!蘭世!)

自分自身で励ましながらこつんと頭を小突いた。

そして、何気にふと横を向いた廊下の先に人影を目にした。

蘭世の目に飛び込んできたのは・・・


さっきの女の子が男性の胸に顔を埋めている。

ドクンと嫌な音が胸に走る。

蘭世はゆっくりとその男性に顔を向けた。


(・・・真壁くんっ!!)

ショックのあまり言葉が出ない。

(何・・・どういうこと・・・?)

はっと激しく揺らいだ空気に俊が蘭世の気配に気づいた。

一瞬目が合う。

何も言えない・・・。

蘭世は少し後ずさりしてそのままその場から走り去った。

「江藤っ!!」

俊が蘭世を追いかけようと女を押し戻す。

だが、女生徒は俊の腕をきつく掴んだ。

「行かないで!今だけでいい・・・ここにいて・・」

強いまなざしに俊はひるんで動けなくなった。




+++++



どうやって帰ってきたのかは覚えていない。

我に返った時、蘭世は自分のベッドにうつ伏せになって声を殺して泣いていた。

(あれは何?何だったの?)

わけのわからないまま泣き続けるしかなかった。


「蘭世?」

椎羅がドアの外から声をかける。

「真壁くんが来ているけど・・・」

(今は会いたくない・・・何をどうしたらいいのかわからない)

「・・・いないって言って・・・」

椎羅はため息をついて階下に降りて行った。




+++++



次の日、

ためらいながらも蘭世は学校に向かった。

俊の姿を無意識に探してしまう。

だが、後姿を見かけた途端逃げてしまった。

(逃げたって真壁くんにはきっと気づかれてしまうけど・・・)

蘭世は悲しく笑った。



+++++


授業も一通り終わってみんな帰る準備を始めた。

せめて真壁くんに会う前に帰ってしまおう。

そう思って急いで帰り支度を始めた蘭世にクラスメートが声をかけた。

「蘭世~、お客様~」

(まさか、真壁くんじゃ・・・)

「だ、誰?」

「さぁ?女の子だけど」

蘭世がろうかに出ると、蘭世はハッと息を呑む。

昨日俊と一緒にいた女生徒だった。

「江藤さん、少しお話できないかしら・・・」

蘭世は少しためらったが、黙ってうなずいた。



+++++



二人は屋上に出た。

しばしの沈黙を破ったのは彼女の方だった。

「昨日のこと・・・」

「・・・・!!」

「ごめんなさいね」

「え?」

俯いていた蘭世はその言葉に顔を上げた。

「真壁くん、あなたと追いかけようとしてた。

 ・・・でもあたしが引き留めたの。ここにいてって」

「・・・・・」

「真壁くんが好きなの。あなたのこと知ってるわ。いつも彼のそばにいて。

 でもあきらめきれなかった。好きになってしまったんだもの。昨日、告白したわ」

「告白・・・」

蘭世の顔から血の気が引く。

立っているのがやっと・・・。

「くすくす。そんな死にそうな顔しないでよ。大丈夫よ、はっきりと振られたわ」

「振られた?」

「あなたたちって、四六時中一緒にいる訳じゃないし、ほらカールの髪の女の子も

 よく一緒にいるじゃない?ホントにつきあってるのかどうかもよくわからなかったし、

 あなたになら勝てそうな気もしたし」

勝気な笑みでその女生徒は蘭世を見る。

「だから告白したの。でもふられちゃったわ。あなたのこと聞いてみた・・・」

「・・・」

(真壁くんは・・・何て言ったんだろう・・・)

「あなたはどうなの?」

「え?」

「彼と付き合ってるっていう自覚、あるの?」

「付き合ってるっていうか・・・」

「・・・・」

そういうものさしで考えたことはない。

ただ、俊が好きで俊のそばにいたくて、そしてその気持ちを俊は受け入れてくれた。

人間になったときも、ゾーンを倒したあとも・・・。

「・・・わ、私たちはもっと深いところでつながってるの、そんな簡単な関係じゃないわ!」

(・・・言ってしまった・・・///でも、でも・・・そう信じてるんだもん!)

思いがけない蘭世の強い口調にその女生徒も当の蘭世も驚いた。

「・・・・そう」

「・・・そ、そうよ。だから真壁くんは誰にも渡せないわ!」

今度は蘭世もひるむことなくゆっくりと女生徒の目を見て言った。

「・・・同じようなこと言うのね・・・」

「・・・え?」

「真壁くんにあなたと付き合ってるのかって聞いた。そしたら彼・・・」





+++++ 

俺にはおいつしかいねえし、あいつにも俺しかいねえんだ・・・。

その関係は崩れないの?時間をかければ私だって・・・

無理だ・・・。

すごい自信ね・・・

それだけいろんな壁を乗り越えてきたってことだ・・・

そう・・・

だから、すまねえがあんたの気持ちには答えられない・・・

彼女のこと愛してるのね・・・

・・・。

違うの?・・・

たぶん、そういうことなんだろうな。でも・・・好きとか嫌いとか

愛してる愛してないとか、付き合うとか付き合わないとか・・・

そんな簡単な関係じゃない。そんな簡単に片づけたくないんだ・・・



+++++



「あなたたちの間にどれほどの絆があるのか知らないけど、屈辱だわ。

 私、今まで振られたことなかったのよ」

「ご、ごめんなさい・・・」

「くす・・・なんであなたが謝るのよ・・・まあいわ。あなたのさっきの瞳を見たら

 何も言えなくなっちゃった。ホントは宣戦布告しようと思ったんだけど」

「え!!」

女生徒はふぅと息を吐くといった。

「お幸せに・・・なんて言えるほど私は心広くないからこのまま行くわ。じゃあ」

夕暮れの太陽の光を背にして女生徒はその場を立ち去った。




はあぁぁ。

蘭世は深く息をついた。

「緊張した・・・」

(でも。。。よかった)

タタタと足取り軽く階段を下りていく。

鞄を取りに教室に戻ると教室にはだれもいなかった。

ただ一人を除いては・・・。



「真壁くん!」

窓の外を見ていた俊が振り向いた。

「よぉ」

蘭世の目からハラハラと涙が零れ落ちた。

「や、やだな・・・目にゴミが・・・」

俊は蘭世に近づくと、涙の零れたほほにそっと手を当てた。

蘭世は俊を見つめる。

俊はその瞳にこたえるようにそっと蘭世の体を抱きしめた。

「真壁くん、ありがとう」

「・・・何が?」

「ううん、なんでもない」

「・・・聞かないのか?昨日のこと」

「うん、いいの」

(聞いたもん!)

(聞いたのか・・・)

俊は少し顔が赤くなったのを見られないように、すばやく蘭世の口元にキスを落とすと

くるっと背を向けた。

「帰るぞ。腹減ってんだ。ハンバーガーでも食おうぜ。おごるし」

「うん」

蘭世は涙をパッと拭いて笑顔で答えた。



「・・・それにしても、お前昨日居留守使っただろ。朝も逃げたし」

「え?いや、その・・・」

「おふくろさんもどぎまぎしてるし、俺がわからないとでも思うのか?」

「だってぇ・・・」

二人は寄り添って校門を出ていく。

夕焼けに照らされてできた二人の影が長く伸びていた。



<END>


+あとがき+

修正したかったんだけど
けっきょくあんまりできなかった・・・。
気持ちを読めるとあまり語らなくてもわかってもらえるからいいよね。
一方的ですが・・・^^;
















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