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070 かくれんぼ

俊幼少×蘭世+筒井 転生後 筒井くん視点

100のお題より   お題提供:ドリーマーに100のお題 桜野雪花菜さま





「あっ、俊くん、みーーーっけ♪」

「あ~あ、見つかっちゃったー。」

「さっ!じゃあ今度は俊くんと鈴世、じゃんけんして負けた方が鬼よ」



僕が昼過ぎにこの別荘に来たとき、蘭世と鈴世と…そして真壁は

3人でワイワイとかくれんぼをしている真っ最中だった。


真壁…といっても今まで僕が知っていた真壁の面影はそこにはない。

純粋な瞳の子どもの姿をした真壁であった。



真壁が魔界というところの王子として生まれ変わった。

そしてその命を狙われていて、蘭世たちが彼を守ろうとしている…

その話を聞いたのはつい先日のことだった。


鈴世と、そして蘭世も、ふつうの人間ではないのでは・・ということは

うすうす気づいていた。

だが、今回の話は僕の想像をはるかに超えるもので

まるで夢を見ているのではないかと思った

まさか、あの真壁まで僕の想像に入ってくるとは思いもしていなかった。



だが、ここしばらく、江藤家や、生まれ変わったという真壁たちと接していると、

何も変わらないようでいて、やはり現実なんだなと確信しつつある。

赤ん坊の姿から少し成長した真壁は、あの頃の大人びた様子は全くないが、

きれいな二重の瞳は、まさしく彼のもので、

この愛くるしい姿のまま成長していれば、もっととっつきやすかったのになどと

考えてしまい、ふと笑みが零れる。


今や彼女の隣にいたあのあの真壁はもうどこいもいない。

いるのはあのちびっこい俊だけ。

数歳ずつ成長はしていくようだが、それも確証されているわけでもない。

蘭世・・・。

その細腕で、君はずっとそいつを守り続けていくつもりなのか・・・。





楽しそうに笑っている蘭世を見て、また僕の心がうずいた。

彼女の彼に対する想いを知れば知るほど

皮肉なことに、自分の気持ちも彼女に向かって行ってしまう。

紳士であろうとする自分の理性だけが、暴走をかろうじて食い止めていた。

あの真壁が・・・今はいない・・・。

今、彼女を守れるのは僕じゃないのか?

魔界なんて関係ない・・・。

そばにいてあげたい・・・。

欲望の心が目を覚ましそうになり、自分の中でどうしようもない葛藤が始まる。。。




「あ、筒井くん!いらっしゃい!ってここは筒井くんの別荘だったわ・・・えへへ」

蘭世が僕の存在に気づいて、声をかけてきた。

彼女の屈託のない笑顔が僕にもう一度理性を呼び起こさせた。



「・・・やあ、しばらく」

冷静さを装って僕も笑顔で答える。

「あ、筒井のお兄ちゃんだ!お兄ちゃんも一緒にかくれんぼしようよ!」

真壁も鈴世に手を引っ張られ駆け寄ってくる。

なんてまっすぐに人を見る瞳をもっているのだろう・・・。

とても同じ人物とは思えなくて僕は自分に潜んでいた邪な心も忘れて、笑いを堪えた。




「お~し、やるか~。お前はホントかわいいな~。

このかわいさを残して元に戻ればいいんだけどな」

僕は真壁の小さい頭をぐしゃぐしゃと撫で回して言った。

「やだ、筒井くんったら・・・クスクス。かわいい真壁くんなんて気持ち悪い…」

蘭世も吹き出しそうになるのを堪えながら笑った。



ホント君は楽しそうに笑うんだな…。

本当は何かに縋り付いて泣いてしまいたい気持ちでいっぱいのはずなのに。


子どもの真壁と手を取り合って笑う姿は傍目から見ると本当の姉弟のように見えるが、

僕にはそれ以上のもっと強い絆で結ばれているようにも見えた。


お互いに深く信じ合い、頼り合い…。



自分の出番なんてどこにもないってことを思い知らされる。

ここにいるのはあんなに幼い姿の真壁でしかないというのに・・・。



「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」

背後でいつの間にか後ろに回っていた俊の声がして振り向いた。

「早く隠れないと、鈴世のお兄ちゃんに見つかっちゃうよ」

「・・・あ」




感情に耽っている間にかくれんぼは再開されていたようだ。

鈴世が鬼らしく、数をゆっくり数えている。

「ほら、早くー」

そういって俊が小さい手で僕の手を握ってクイクイと引っ張った。





物置の影に僕と真壁は隠れた。

よく考えればなんて不思議なことなんだ。

隣にいるのはあの真壁で、一緒にかくれんぼしているなんて・・・。



横目で見ると真壁は必死で鈴世の動きを目で追っていた。

あまりの真剣さに可笑しくなって僕は思わず噴き出した。


「あ!ダメだよ!シーーーッ!!」

真壁は人差し指を口元にあてて、小さい声で僕を窘めた。



「あ、わるいわるい」

かわいらしいしぐさに微笑ましくなったが、この隙だと思い僕はふと聞いてみた。



「なぁ・・・俊?・・・お前・・・お姉ちゃんのこと・・・好きだろ?」



「・・・?・・・うん」

俊は首をかしげながらうなずいた。


「じゃあ、早く大きくならないとな。でないとお兄ちゃんが取っちゃうぞ」



子ども相手にいうことではないのは重々承知していた。

だが、言い出してしまったことは最後まで言わずにはいられなかった。

普段の姿に向かっては到底言えない言葉・・・。



俊はわけがわからないといった様子できょとんとしていたが、

そのあと惜しげもなく言った。

「うん、大丈夫だよ。僕、早く大きくなって、ずっとお姉ちゃんと一緒にいるから☆」

俊はにっこり微笑んで言った。


(俺がずっと一緒にいるから・・・)


幼い俊の背後に一瞬であったが元の真壁の姿を見たような気がした。


(だから、お前は手を出すなよ・・・)


そういってはにかんだ気がした。

普段の姿なら恐らく到底聞けない言葉・・・。



「・・・そっか・・・そうだな・・・。よし、任せたぞ!」

僕はそれだけ言った後、もうそれ以上は何も言わなかった。というより言えなかった。

子ども相手に凄んだ自分が腹立たしかったし、子どもながらに素直に言い切る真壁を

何となく頼もしく思えた。

もう何をいう必要もない。

彼女がこいつをどこまでも信頼するのはこういう部分なのかもしれないな。

どんな姿であれ、お前の口から聞けてよかったよ…真壁。。。



「あ、筒井のお兄ちゃんと俊くんみっけ~」

思いがけずに鈴世が視界に飛び込んできた。

「あーー、見つかっちゃったーー。お兄ちゃんがしゃべってるからだよぉーー」

もう!とふくれながら真壁は子どもらしく怒っていた。

「わるいわるい。よしじゃあ今度は僕が鬼になるから、二人とも隠れろ~~~」

「ほんと?わ~~~」

そういって二人は離れたところにいた蘭世も誘って三人で隠れだした。

フッと笑って三人の後姿を見送りながら、僕はゆっくりと数を数え始めた。



<END>


+あとがき+

王子が生まれ変わった時期のお話でした。
蘭世に迫ろうとしているアロンに向かって
「お姉ちゃんから離れろ!(江藤から離れろ…)といったシーンが好きでしたので
ちょっとイメージを借りて書きました。
小さくても真壁くんなら守ってくれるんでしょうねw








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朝もやの向こうに

俊×蘭世:転生後12歳ごろ

   *お題提供  loca 冴空柚木さま







突然目が覚めた。

つい先ほどまで夢の狭間を漂っていたはずだったが、何かに引き寄せられたように

まだ薄暗がりの中で目が覚めた。

隣ではまだ母が小さな寝息を立てている。

時計を見た。まだ5時半過ぎ。暗いはずだ。

窓の外は少し白ばんできだしたあたりか…。

俊はうーんと伸びをして、寝ている母を起こさないように

そっと寝床から抜け出した。




ここは筒井のお兄ちゃんの別荘だと聞いている。

ここで俊は、母とそして蘭世と家族たちとともに住んでいる。

(そういえばもう一人のおうじとやらも先日来たが)




俊には記憶が二つある。

母と以前二人だけで住んでいたころの記憶と

もう一つは、ここで蘭世たちと一緒に過ごしている現在の記憶。

母の説明によると、自分たちは魔界人で、自分はその王子で、

何らかの力が働いて(それは何なのかよくわからなかったが)生まれ変わったのだと。

何となくわかったようなわからないような話ではあったが

今までなかった力が体に備わり、

現に二つの記憶を持ち合わせているのだから受け止めるしかない。



俊は現在、12歳になっている。

何歳かずつ成長していくのは、自分としては全く意味がわからないし、

その間の記憶は抜け落ちているわけだから、釈然としなくて、

それほど気持ちのいいものではないのだが、

成長するにつれて、周りが、特に彼女が、涙ぐみながら大喜びするものだから、

最近ではそれはそれで、まぁいいかと思うようになっている。



彼女とは、当然蘭世のことだ。

彼女は、まだ俊の知らない未来の自分、14歳以降の自分を知っているらしい。

それもまた理解しがたい状況だけれども、現にそうらしいのだから仕方がない。

彼女が傍にいることが、当たり前のように過ごしてきたから

あえて考えもしなかったが、よくよく考えれば、

何故一緒にいるのか(それは蘭世だけでなくその家族たちも)

何故身の危険を冒してまでも自分たちをたすけてくれるのかがわからない。



俊は台所に行って、コップ一杯の水を飲みほした。

その時、ふわっと空気が部屋の中に流れ込んでくるのを感じた。

そして何気に目を窓に向けると、少しその窓は開いたままになっており、

その向こうに蘭世が何か空を見上げて佇んでいる姿が見えた。



風が蘭世の髪を吹き揺らし、それはまるで生きているように蘭世の背中で踊る。

空気は早朝特有の白い霧がうすくかかり、

まるで一枚の絵のような、幻想的な景色で俊は目を奪われた。

蘭世の周りだけが、まるでゆっくり時間が流れているようで、

空気中のミクロな水飛沫の動きでさえスローモーションのように見えそうだった。



引き寄せられたのは

このせいだったのか・・・?

俊より少し年上

だから惹かれるのか憧れてしまっているのか、どうなのか俊にはよくわからない。

だが。





ーーーー綺麗だーーー




俊は思わずそう思った。

そして、その姿を、朝もやの中で髪が風になびくその姿情を

俊は遠い昔から知っていると思った。

蘭世の横顔に俊は目を見張り、そのまま動けなかった。

心臓が何度も大きく弾み、体中の血が躍動し始める。




そうだ。

俺はアイツをずっと知っていた。



遠い昔に、あの細い肩をこの腕で抱き、あの長い髪に顔を埋めていた、

自分の意識とは少し違う場所で、その記憶が確かに存在するのを

俊は肌で感じていた。




触れたいと思う。

体が意識よりも早く前に出る。

閉まりかけの窓を俊はもう一度開いて外に出た。

その音に蘭世は気づいて振り向いた。

その拍子に蘭世の髪がふわりと大きく揺れる。

そして「おはよう、早いね」と蘭世は微笑んだ。

また心臓がドキンと鳴る。



やっぱり・・・知っている。。。、




白い頬に手を伸ばしたい衝動をぐっと抑えて俊はつぶやいた。

「何見てたの?」

俊がそういってまだ青味の薄い空を見上げたのにつられたのか、

蘭世はもう一度空を見上げた。

「ん…。今日晴れるかなって思って…」

蘭世はもう一度ニコリとする。

しかし、俊はそれが嘘だとわかる。

蘭世はその空に自分の知らないもう一人の俺ってヤツの面影を

映し出していたんだと思う。




晴れるかどうかなんてそんなことを考えている顔ではない。

どこか寂しげで、はかなげで、その泣きそうな瞳で何かを追い求めている…。

そんな顔だ。

今ここにはない姿を、雲の隙間、空気と水蒸気の間、

もっと超えたそのずっと先まで探している

そんな瞳だ。

何かが零れ落ちそうなその瞳に見つめられて俊はまた何も言えなくなった。




守りたい・・・この人を・・・。



俊は震えそうになるのを堪えて蘭世の頬にそっと手を寄せた。

その瞬間ビクリと蘭世が全身を震わせる。

そしてそのまま視線が合った。

「真壁くん・・・」

この間成長したおかげで、もう蘭世を見上げなくても済むようになった。

しかし、蘭世が自分を見ている瞳は、本当に自分を見ているのかどうか

俊にはわからない。

自分のはずなのに自分ではない。

だけど、自分は確かにこの人を求めているんだ。

そして、この人はオレをこの先のオレを…。

それでいい。

今の自分ではなくても…。


「オレは…」


俊はそのまま蘭世の肩を抱き寄せた。

この感じを覚えているんだ。


オレは生きなければ・・・。

たとえ魔界の奴らがこの命を狙っているとしても

この人を悲しませることはしてはならないんだ。

そしてこの人を守らなければ…。


そう思うんだ。



「あ、あの・・・」

腕の中で蘭世が悶えている。

「え・・・?あ、ご、ゴメンっ///」

俊は慌てて蘭世を引き離す。

顔を真っ赤にして蘭世が慌てている。

「も、もう!真壁くんったら!ませてるんだから!」

そう言い放つと蘭世はそのままその場から走り去った。

「ちょ、ちょっと・・・!」

俊はしばらく呆然と蘭世の去って行った方を見送ったあと、

我に返って、ふーっと大きく息を吐いた。

奈にやってんだ・・・俺は・・・。

自分のしたことが急に恥ずかしくなって顔が火照る。

でも・・・

くそっ!アノヤロウ、ガキ扱いしやがって…。

俊は先ほど、蘭世がしていたように空を見上げた。

彼女が見ていたものは・・・

俊は手を伸ばして宙をつかむ。

それをぐっと引き寄せてこぶしを胸の前で握りしめた。

初めて心から早く成長したいと思った。

彼女の見ていた姿を胸に刻みつけて俊はもう一度大きく息を吐き出した。




<END>  


+あとがき+

原作では12歳になってすぐターナさんが魔界に行ってしまったので
ちょっと話が変わってくるんですが
そのあたりはさらっと流してくださいませ^^;
朝もやの中の綺麗な雰囲気を出したくて書いたお話なんですが
文にするとフツー^^;

生まれ変わる前の記憶というよりは
二千年前からの記憶をちょっと感じてたってことにしたかったんですが
雰囲気出てるかなぁ…(-_-) 




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恋路ひとえに 3

俊×蘭世 中学時代








「帰ろうかな」





蘭世は鞄を手に取ると歩き出した。

そして渡り廊下の角を曲がったところではっと立ち止まった。

そこには俊と例の彼女が向かい合って立っていた。

(げぇ…気持ちが落ち着いたと思ったとたんにまた出くわしてしまった…)

蘭世は何か言おうかと迷っているうちに女の子は蘭世の姿を見てとると

ぐっと唇をかみしめてそして目を潤ませたかと思うと、そこから走り去った。



「あ、ちょ、ちょっと…」


蘭世が呼び止めるのも聞かずにその子はそのまま消えていった。

「い、いいの?真壁くん」

「何が」

「…追わなくて。。。」

「何で俺が追うんだよ」

「だって…」

「・・・・」

「・・・・」



お互い無言のままその場に静かな空気だけが流れる。

追ってほしくないくせにそんな言葉が出てしまった自分に苛立ちすら覚える。

「お前こそ、何かあったんじゃねえのか」

「えっ?」

「なんつーか…元気なかっただろ?朝から…」



・・・今日の蘭世が元気ないところってきっと真壁くんも気づいてるよ・・・



楓の言葉が耳にこだまする。

切なく響く。

うん…真壁くん…気づいてくれてたみたい…。

嬉しいけど、切ないよ…楓ちゃん・・・。






「あの子…真壁くんのこと好き…なんだよね…」

「は?」

「ごめん…私聞いちゃったの。昨日…彼女が真壁くんにシャツを貸してほしいって

頼んでるところ」

俊はぎょっと目を見開いて持っていた紙袋に目をやると、さっと後ろに隠した。

「な、なんで隠すの?」

「えっ!?あ、これは…別に。。。」

「返してもらったとこだった?ご、ごめんね、なんかタイミング悪いところに

遭遇しちゃったみたいで」

「別にそんなんじゃねえよ」

「元気なかったのはそのせいなの」

「え。。。?」

「私が勝手に傷ついて悩んで落ち込んでただけ…。ごめんね。

真壁くんは何も悪くないのに」

「…」

「それだけ。あ、でももう大丈夫。今は元気よ☆心配してくれてありがとう。

真壁くんが心配してくれただけで嬉しい☆」

そういって蘭世はフンっとガッツポーズをして見せる。

俊はそんな蘭世をあっけにとられた顔で見ていたが、ふぅと一つ息を吐いた。




「何か…お前にはかなわねえな…」

「え?何が?」

「そんなに服を貸してほしいならお前にもやるよ。ほら」

そういって俊は持っていた袋を蘭世にポンと投げた。

「えっ・・・っと、あわわ…」

落としそうになって蘭世は必死でそれをつかむと胸元に抱き寄せた。

「それで気が済んだか?」

「えっ?」

「それで、お前が元気になるならそんな服やるよ。煮るなり焼くなり好きにしろ」

「…わ、私はそういうつもりじゃ…」

「その代わり…」

「・・・」

「いちいち一喜一憂しないでくれ。

…こっちが参るんだよ、お前が元気ねえと・・」

「え…それってどういう…」

「うるさいっ!!いちいち聞くな!///じゃあな」

そういうと俊はぱっとその場から駆け出してしまった。

「あ…ちょっと真壁くん!」




楓ちゃん…

私…あの子より私の方がって思っちゃってもいいのかな…。

あの子のこと気にしながら、それでもエゴイストになってしまっていいのかな…。

だって・・・だって・・・

なんだか嬉しくて…涙が出るよ…。




そういって蘭世は俊に投げ渡された袋に顔を埋めて

騒ぎ出した鼓動が治まるのを壁にもたれてゆっくりと待った。

この服を彼女もこうやってぎゅっと抱きしめたに違いない。

俊が彼女に何をどう告げたのかはわからないが、彼女の瞳から

あふれ出しそうになった涙が全てを物語っている気がした。

あの子の気持ちを思うと胸がいたい。

それでも、それでもやっぱり俊を好きだという気持ちは変えられないのだ。

恋ってそういうもの。

切なくて痛くて、それでいて・・・・一途なものなのだ。



(真壁くん・・・)


やっぱり私・・・真壁くんが好きです・・・・


蘭世はそう心で唱えるともう一度その袋をぎゅっと抱きしめた。





<END>




+あとがき+

中学の時、大好きだった男の子から服を借りたことがあります。
まさにこんな状況。ドキドキしましたー☆
優しい人だったので王子のようにぶつくさ言わずに快諾してくれましたけど(笑)
返した後にその服を着てくれているのを見たときは
心臓が飛び出そうになりました☆
淡い思い出ですw









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恋路ひとえに 2

俊×蘭世 中学時代







文化祭当日ーーーーー。




答えの出ない悲しみに蘭世は眠れないまま一夜を過ごした。

あれだけ楽しみにしていた文化祭なのに、昨日のあの現場に出くわしてからは

一気に気持ちが落ち込んでしまった。

しかし、だからといって休むわけにもいかず、そのまま蘭世は登校した。


ここ数日の気持ちの高まりが一気にこの日に向けて放たれたものであることを

再確認できるくらいの盛り上がりがそこにあった。

開催時間まではまだ1時間ほどあるのに、学校の中は早くも祭りムード一色で

ここだけ世間からは隔離された別世界だった。



教室に向かうと、廊下で昨日の女の子を見かけた。

別の子とすでにシャツに袖を通してとびっきりの笑顔がそこにあった。

(真壁くんのシャツなんだ・・・)

あれから二人がどんな会話をして、そしてどんな風に俊が彼女にそのシャツを渡して

どんな風に彼女がそのシャツを受け取ったのか、どんな風に別れたのかは

わからない。

しかし、彼女が俊の服を着ているということが蘭世の心をまた締め付けた、

彼女があの俊の服に腕を通す瞬間、いったいどんな気持ちでいたのだろう。

俊を想い、胸に抱いて、ドキドキしながらそのシャツを着る。

まるで自分が俊に包まれているようなそんな感覚さえ覚えたりして…。






ヤキモチ、嫉妬、羨望・・・

なんなのかわからない。

いや、どれにも当てはまるのだろう。

でも、それを制止することなんて自分にはできないことが

一番悲しいのかもしれない。

だって私は真壁くんの彼女でもなんでもないんだから。

ただの私の片思いなんだから。




目を伏せて教室に入ると、そこにはすでに俊も来ていた。

(ううぅ・・・よりによって・・・)

「真壁がこんな日にこんな早く来てるなんて意外だなあ」

「うるせぇ」

クラスメイトと談笑していた俊が教室に入ってきた蘭世を見つけた。



「オッス」

「お、おはよ」

俊から声をかけてくれるなんていつもなら飛び上るほど嬉しいはずなのに、

響はどうしてもうまく笑えない。

それに俊も気づいたのか「ん?」と首をかしげた。

「どうかしたのか?」

「え?何が?」

「・・・やけに大人しいから」

自分のことを気遣ってくれる俊の言葉が今日はとても切ない。

嬉しいのに、素直に喜べない。

「え?そ、そうかな?ちょっと昨日眠れなくて…寝不足かな?」

そういって蘭世は笑顔を作った。

「なんだよ。楽しみすぎてか?ガキみてえ」

俊はそういうとクッと笑った。




そうよ…楽しみだったの。

真壁くんと一緒に楽しみたかったのに・・・。




蘭世は目は熱く潤ってくるのを感じてその場から駆け出した。

「お、おい!江藤!」

俊が背後から呼ぶのにも振り返れない。

蘭世はそのまま教室を出て行った。


「あっら?真壁、江藤とケンカでもしたのか?」

「別に、んなんじゃねえよ」

そういいながらも俊は釈然としない気持ちを抱えながら

蘭世の出ていった方を見つめていた。






+++++





空は高く秋晴れーーーーー。

雲一つない青い澄み切った空を見上げると蘭世はほぉっと深く息を吐いた。

文化祭は滞りなく無事閉幕した。

鈴世の案内をしたり、クラスの催しもうまくいってその慌ただしさに

身を置いていると落ち込んでいた気持ちは幾分薄れてきた。

そして逆に八つ当たりのようになってしまった俊への態度にも

今は後悔を覚えていた。


(真壁くんは何にも悪くなくて、私だけが勝手に思い悩んでいるだけなのに)


しかし、なんだかうまく目を合わせられなくて俊を避けてしまった。

何かいいたげにしていたようだけど、逃げるようにして避けてしまった。




「あ~あ」

うまくいかない気持ちにもどかしさを感じて蘭世はため息を吐いた。

「ため息なんてどうしたの?蘭世らしくないよ」

振り向くとそこには楓が立っていた。

「なんか元気ないね」

「え?そ、そう?」

蘭世がドキッとした顔をさせると楓はニコっと微笑んだ。

「だって、真壁くんと話さない蘭世なんて珍しいじゃない。一目瞭然よ」

「そ、そっか…私ってば、わかりやすいのかな」

「くす…そうね」

「ガーン」

「でもそれが蘭世のいいところでしょ?」

「・・・楓ちゃん・・・」

蘭世の目から涙があふれ出した。

そして抱えていた思いがそれと一緒に一気に流れ出した。




+++++




「・・・バカね。蘭世ったら」

楓は二人座ったベンチで蘭世の肩にそっと手を置いた。

「真壁くんがシャツを貸しただけのことでしょ」

「…そうなんだけどね」

「でもしょうがないよ。たぶん、それが恋ってヤツじゃないの?」

「恋?」

「好きな人の言動一つで舞い上がったり、落ち込んだり…

辛いこともあるけど嬉しいこともいっぱいあって…」

「…うん」

「でもそこでへこたれないのが蘭世じゃないの?」

「…へ?私?」

「あの神谷さんにあれだけ対抗できるのに、相手が変わっちゃったらだめなの?」

「で、でも…神谷さんとはタイプが違うというか…あんな真剣に

迫られちゃったら真壁くんも心が動くんじゃないかって・・・」

「で、どうなの?動いた感じなの?」

「・・・わかんない」

「いつもはあんなに真壁くんにぶつかっていってるのに、今回はどうした?

蘭世らしくないよ」

「・・・確かにそうだね」

「それに、真壁くんはそれくらいじゃ心動かないと思うよ」

「な、なんで?」

「真壁くんってあんなだし、神谷さんがいたからあまり誰も近づかなかったけど、

昔からよくモテたの」

「…そうだよね。…かっこいいし…」

「でも告白とかされても全然振り向かないのよね。硬派というか、なんというか」

「・・・」

「彼女のことはともかく、真壁くんはそんな突然の告白とかで

心が動く人じゃないのよね」

「それって…やっぱ私もダメってことかな…」

「あーそうじゃなくて。。。そんな真壁くんが蘭世のことをとにかく気にしてるでしょ?

それってすごい変化だと思うのよね」

「真壁くんが私を気にしてる!?まさかそんなわけないでしょ」

「気づいてないのは蘭世だけでしょ」

「う、嘘だ…」

「蘭世が元気ないのきっと真壁くんも気づいてるよ。

それって今までの真壁くんから考えたらすごく大きなことだと思うのよね」

「・・・」

「クヨクヨしてるなんた蘭世らしくないよ。真壁くんにだって心配かけたくないでしょ?」

「うん…そうだよね。私…なんかちょっと元気出てきた」

「キューピッドみたいな力、私持ってないけど、話聞いてあげることぐらいは

できるんだから、一人で悩まないで」

「うん。ありがとう!楓ちゃん」




+++++





恋ってよくわからない。

自分がどうしたいのか、真壁くんにどうしてほしいのか。

こんなに自分が欲張りだったなんてしらなかった。

ただ、真壁くんが好きなだけなのに…。

たぶん、あの女の子もきっと同じ気持ちなんだろう。

せっかくのこの機会に勇気を振り絞った結果の行動だったんだろう。

真壁くんを想ってる女の子が他にもいたなんて全く気付いていなかったけれど、

あの子からしてみたら私の存在も神谷さんの存在も、

私があの子のことを思うような気もちときっと同じなんだろう。

誰もが同じ夢を見てる。

ただ、真壁くんを好きだという気持ちだけを抱えて。




顔を上げて空を仰ぐと気持ちはなぜかスッとした。

不思議だ。

そういえば昨日から一人でずっとうつむきっぱなしだった気がする。

ずっと天気も良かったはずなのにそれもよく覚えていないほどに。

楓の心からの励ましもあって、蘭世の気持ちも少し前を向きだした。

「あんなことぐらいでウジウジなんて蘭世らしくないゾ!」

悩んだところでそれでも俊を好きだという気持ちは変わりないんだから…。




<つづく>









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恋路ひとえに 1

俊×蘭世 中学時代
原作の流れには即してませんのであしからず。。。





こんな気持ちを恋と呼ぶのなら

恋というものはなんて切ないんだろう。




+++++




校庭の木々も徐々に色づき始めたそんな秋の日だった。

文化祭を目前に控えて少し浮足立ったその歩調を落ち着かせるのに苦労しながら

蘭世は鞄を抱えて教室から出てきた。

文化祭の準備で少し遅くなったがまだ日が沈むほどではない。

生まれてはじめての文化祭というものに蘭世は心躍らせていた。

このあけぼの中学に転入するまではほとんど社会経験というものを

してこなかった蘭世にとって、学校の出来事は楽しいことばかりだった。

授業やテストは正直苦手ではあったが、それよりももっと楽しいことの方が

多かった。

日々催される行事もすべて初めてのことばかりで、

そして明日に迫った文化祭も例外ではない。

筒井くんをクラスで呼ぶという予想だにしない(むしろ意に反する)

展開にはなってしまったものの、それでもクラス中はその準備に向けて

盛り上がっていたし、蘭世自身はその他のクラスの出し物なども楽しみにしていた。

クラスで舞台劇をやるところもあれば、歌を歌うところ、模擬店をするところや、

お化け屋敷のような催しなどもあって

それれのクラスは連日の準備や練習に遅くまで居残っているようで

まだ校内はあちらこちらでにぎやかな声が響いていた。

学校全体が普段とは違う勢いづいた空気に包まれているのを蘭世は肌で感じた、

その空気に自然と自分がなじみ一緒に心逸っているのが楽しくてしょうがない。

あとはそばに真壁くんがいてくれればなぁ…と

蘭世はふっと肩をすくめた。





+++++




俊はこんな行事には至って無関心だ。

教室中がどんなに騒いでいても一人どこ吹く風と素知らぬ顔だし、

それがクラスメイトの中でもいつものこととして特に取りだたされることもない。

この前の臨海学校での旬の行動はそれだけに意表をついたことだったし、

ラストのフォークダンスに蘭世が無理やりにでも俊を引っ張り出したことは

さらに皆を驚かせた。



真壁くんはただただシャイなだけなんだから…



蘭世は明日の文化祭当日には絶対俊を出席させようと意気込んでいた、

絶対にみんなの輪に入った方が楽しいんだから…と。

だけどそれはホントは建前。

ホントはただ俊と一緒に文化祭を楽しみたいだけ。

校内に俊の姿がないのがたださびしいだけなのだ。

そう、恋というものはただそれだけ。

学校に来て、いろんなことを知って経験して、

そして、恋というものを初めて知った。

あの人を思うだけで心が騒いで眠れなくて、ただいつもそばにいたいと思う。

響も俊は自分の与えられた役割だけをとっとと澄ますと

「お先に」といって帰ってしまった。

例えば待ち合わせをして一緒に帰って・・・とかできたら

どんなに素敵なんだろう。。。、

そして明日の文化祭はちょっとしたデートみたいに一緒に回って…vvv

蘭世は抱えたカバンをギューッと握りしめていつもの甘い妄想を繰り広げた。

そして何気なく銀杏並木に目をやった時、蘭世のビクン胸が鳴った。




あっ真壁くん…!!



帰ったとばかり思っていた俊が銀杏の木に背中を預けて立っていたのだ。

より、明日の文化祭のことを誘うチャンス!

と蘭世は俊の方に駆け寄ろうとした。その時、

俊の前に一人の女の子も立っていることに気づいた。



え・・・何・・・?




俊のこういう現場を見ることなんて早々ない。

女の子たちは俊には怖がってあまり近づかないし、俊自身が女には興味がないと

まで言っているのだから

蘭世にはその光景の意味するところがピンと来なかった。




誰だろう・・・。



いやに物々しい感じがして、それでいて、曜子と俊が向き合っている時のように

入り込んでいける空気ではない。

女の子は少しうつむき加減で少し顔を赤らめて、

俊は不機嫌とまではいかない困ったような顔をしていた。

しかし、この距離だと何を話しているのか聞こえず、蘭世は歯がゆくなった。



う~ん・・・何話してるんだろう・・・き、聞きたいっ!



盗み聞きなんてよくないってわかってるんだけど…

そう思った気持ちはもう抑えきれなくて。

蘭世はキョロキョロと見渡すと「あっ!ロッキーちゃん!」と

いつものタイミングの悪い?猫を見つけた途端・・・



「ガジっ!!」

思い切り蘭世は噛みついた。






+++++






猫になった姿で蘭世はそっと俊の後ろに回り込んだ。

ロッキーのことは俊も知っているのだからあまり姿を見せるのもよくない。

そっと背後から聞き耳を立てる。


「お願いします」

「・・・だからなんで俺のなわけ?」

「それは…///」

「他にいんだろ?シャツを貸してくれるヤツなんて」

「・・・真壁くんから借りたいんです!」

意を決したように女の子は手を胸で握りしめて俊を見つめた。

「・・・・」

その姿に俊も口を閉ざす。




恋だ・・・

恋をしている目だ。

真壁くんを好きな自分だからわかる。

女の子は確か隣のクラスの女子だ。

そういえば、他の子がクラスで出し物の衣装をそろえるために

男子の制服の開襟シャツを借りるという話を先日耳にした、

隣のクラスの話だからとその場ではふーんと聞き流していたが、

まさかその動きが俊にまで及ぶだなんて蘭世は予想だにしていなかった。

しかも、まさかこんな風に…。これではまさに告白と同じだ。。。

蘭世はドキドキしながらその場を見守る。



「…でも明日だろ?俺忘れるかも…」

「今からじゃだめですか?一緒に取りに伺ってはいけませんか?」

「えっ」

(えっ!!)

「今から・・・?」

「ご無理を言ってることはわかってます。でも、でも・・・お願いします!」

「・・・お願いします!・・・シャツを貸してくださるだけでいいんです。

終わったらすぐにお返ししますから!」

その勢いはたぶん誰にも止められない


一度心に決めた女性というものはなんて強いんだろう。







「・・・わかったよ」

俊はそれだけいうと、黙ってその場を離れて歩き出した。

(嘘・・・真壁くん!)

女の子ははっと我に返り、顔に笑みを戻して俊の後ろを小走りについていった。


蘭世はその後を追いかけようとしたが、足を前に出せなかった。

追いかけていくことがいい結果を生むとは思えなかった。

俊の「わかった」という言葉の真意はわからない。

だけど、少なくとも女の子の気持ちは今は幸せなものになったことは確かだ。

俊にとってはただシャツをかすだけの行為なのかもしれない。

あんなにお願いされたら貸すぐらいならと受け入れるだろう。

あれで完全に拒否していたら、蘭世の性格上、女の子の立場に立ってしまって

逆に俊を非難しかねない。



しかし。。。。

二人で去っていく後姿がこんなに心を傷めるものだなんて思いもしなかった。



(真壁くん・・・)



「ニャァ」

声にならない蘭世は痛む心を抱えてその場から走り出した。




<つづく>


























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