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夏の夕暮れ

俊×蘭世 中学時代




時間も6時くらいになると、陽も少し傾いて、日中のうだるような暑さは

幾分和らいでいた。

午後からずっと教室に缶詰めにされていた蘭世は、

歩きながらう~んと大きく伸びをした。


あけぼの中学では数日前に終業式が終わり、夏休みに入ったところだったが、

1学期の成績が仇となり、蘭世とそして俊はそろって補習に呼ばれていたのだ。

それも今日で終わり。

普通なら補習最終日の帰宅時間ほど開放的なときはないように思えるが、

蘭世にとっては、それはそれは悲しい時間だった。

大嫌いなお勉強とはいえ、俊と2人だけの補習は(もちろん先生もいるのだが)

何か2人の共有時間のように思えて心躍るものだったから、

それが終わってしまうのはさびしさを感じずにはいられないのだ。

午後から机に縛り付けられていた体には、伸びをすることで

穏やかに緊張がほぐされ心地よい感覚が戻ってきたが、

心は物悲しさでいっぱいだった。



それにひきかえ、俊はけだるそうに歩いているものの、

ようやく連日の補習から解放されたからか、表情は明るい。

(そうだよね…ふつうは嬉しいよね…)

そう思うと蘭世ははあと小さく息をもらした。



「なんだ?しけたツラして」

俊はそういって隣で表情を曇らせている蘭世に気づき声をかける。

「なんでもなーい」

言ったところで補習は終わってしまったのだからどうにもならないのはわかっている。

蘭世は思いをぶつける術もなく、一人でふてくされたまま。

「せっかく補習が終わったってのに、いやに不機嫌だな?」

俊は首を傾げながら聞くも蘭世からの返事は返ってこない。

蘭世としてもただの八つ当たりだとも、せっかくの俊との帰宅の時間だとも

わかっていながら、

一度心を占めてしまった悲しい気持ちは、なかなか振り払えず

どう答えていいかもわからなくなっていた。


補習が終わってしまうのをさびしく思うのは自分だけだということが深く心に刺さる。

俊と自分の心の距離を激しく思い知らされたようで悲しくなるのだ。


(このまま休み中会えなくなるのに寂しく思うのは私だけなんだよね…)


それでもこのままだとせっかく補習最後の2人の帰宅が気まずいまま終わってしまうことにも

耐えかねて、蘭世はそっと俊の様子を見ると、

それと同時に俊も蘭世を見ていた。

蘭背は驚いて慌てて眼を逸らす。



しかし、それにカチンと来たのは俊。

ムッとした表情で蘭世を睨む。

「何だよ。言いたいことがあるならはっきり言え」

「な、なんでもないよ」

「じゃあさっきから何だよ。その態度は」

「。。。」

蘭世は立ち止まってそのまま黙ってしまう。

その姿に俊ははあと大きく息をついた。




緊張感が走る。

気まずい雰囲気が2人の間に流れ込む。

先ほどまでの暗い気持もそれに後押しして、蘭世の目頭がじんわり熱くなる。


伝えたいことは山ほどある。

いかに貴方を想っているかということを…。

だけど、それを伝えられる距離にはまだ自分はいないのだ。

会えなくなるのがさびしいと訴えられる間柄ではないのだ。


その気持ちを知ってほしいだけなのに

伝えられないもどかしさと誤解されていく悲しさと…

そしてこんな空気になんてしたくないのに、ちょっとしたきっかけでなってしまう。

怒られるくらいなら逃げ出してしまいたかった。



そんな空気の中で俊がふと漏らした。

「何か俺…悪いことしたか?」

その言葉に蘭世ははっと顔をあげた。


すると俊が困った顔をして俯いていた。

蘭世は胸に違う痛みが走るのを感じた。

怒鳴られると思っていたのだ。

自分の煮え切らない態度は俊が最も嫌うことだとわかっていたから。

立ち止まった時点で「勝手にしろ」と置いていかれるものだと思っていた。


なのに、俊は去ってはいかずに、そして怒鳴ることもなく。

少し悲しげな表情で蘭世にそう聞いた。

俊にこんな表情をさせたことへの罪悪感。

自分の勝手な思い込みと気分のムラのせいで好きな人を困らせていたのだ。


「あ…ごめんなさい…」


蘭世は慌てて答える。

静かに俊がこちらを見た。

「真壁くんは何も悪くなくって…ただ…」

2人の間にざっと風が横切る。

言ってどうにもならないことは分かっているけど…

それでもこんな風に向かい合ってしまったら黙って立ち去ることもできない。

俊も黙ったまま蘭世の言葉を待っていた。



どれくらい時間がたっていただろう。

蘭世はふうと一呼吸するときゅっと口元を引き締めて気分を入れ替えた。

「ただね…ちょっとさびしくなっちゃっただけ☆

補習、今日で最後だし…真壁くんとの2人だけの補習も終わっちゃったなぁ…って…

それだけです…ハイ…」

言ったとたんに恥ずかしさがこみ上げて頬が熱くなる。

でもいつまでも落ち込むのは自分らしくない。

思いきって笑顔で明るく言ってみたが、言い終わるとどっと不安が押し寄せる。

なんつー子どもっぽいことを言ってしまったのだ…

蘭世はそう思いながらもちらっと俊の表情を探る。



俊はしばらく無言のまま蘭世を見ていたが、

「何だそんなことか」と表情を崩さずに振り返り再び歩き出した。

(やっぱそうなるよね…)

蘭世はガクっと肩を落としたものの、言ってしまえば少し気持ちが楽になった。

よくわからないけど、俊もいつもどおりに戻ったみたいだし…と

俊の後ろをまたついて歩いた。

すると俊が振り返らないままで言った。



「そういえばさあ…今日神社で祭りあるよな」

「え?祭り?」

急にふられた話題に蘭世は何のことかとそのまま問い返す。

「夏祭り」

「へえ…そうなんだ…知らなかった」

「行ったことねえの?毎年あるぜ?」

「うん…ない」

「あーそっか、引っ越してきたんだっけ、お前」

「え?あぁ…まあ…」

引っ越してきたわけじゃないんだけど…と心で苦笑しながらも

家の外のことなんて中学に転入するまで蘭世は知る由もなかったから

もちろん夏祭りのことだって今日が初耳だ。

すると俊がさらっと言った。


「ふーん…じゃあ行ってみるか?」

うつむいたままだった蘭世は俊のその言葉に立ち止まって一瞬言葉を失った。

あまりにも普通に流れるように言われたものだから

言葉の意味を反芻するのに時間がかかったのだ。

「…え?」

「だーかーらー。祭り。補習もせっかく終わったってのに、

そんな暗い顔されてるとこっちまで気が滅入るだろ」

そういって俊は振り返ると悪戯っぽくはにかんだ。


「え…もしかして…一緒に?」

「は?一人で行ったってしょうがねえだろ。ほら行くのか行かねえのか?」

蘭世はぱっと表情を変える。

それは夕暮れに照らされたヒマワリのように明るかった。



「行く!行きます!ぜひ行かせて下さい!」

俊はそれを聞くとぷっと吹き出す。

「現金な奴だな。さっきまでこの世の終わりみたいな顔してたくせに」

「だ、だって…真壁くんが誘ってくれるなんて思ってもみなかったから…」


俊ははっと息を飲んだ。

心から嬉しそうにほほ笑むその笑顔に一瞬目を奪われた。

そしてそれを悟られないようにぱっと眼を逸らすと

「ほらさっさと行くぞ」とわざとぶっきらぼうに言った。

それでも一瞬にして晴れやかな気分に一変した蘭世には俊の悪態はもう耳に入ることなく、

「うん!」とだけ言うとニコニコしながら飛び上がるように歩きだしていた。


俊はあっけにとられたものの、一目でわかるその嬉しそうな後ろ姿を見てふっと笑った。

「…単純」

「うん?何か言った_」

笑顔で振り向く蘭世に俊は「別に?」と言うと蘭世の頭をくしゃっと撫でた。

「あ!もう髪の毛が…!」

そういって蘭世は俊の手を払いのけようと抵抗するとその腕をパッと俊に捕まれた。


(えっ…)


ドキンと心臓が高鳴る。

その瞬間に蘭世はピタリと動きを止めざるを得なかった。

俊の強い瞳がまっすぐこちらを見ていた。

その瞳に射すくめられたように動けなくなった。


しかし、その刹那。俊は何事もなかったように黙って蘭世の腕を離すと

そのままポンと頭を叩いた。



(真壁くん…?)



蘭世の視線から逃れるように俊はくるりと振り返った。

「行くか」

「…う、うん…」

そううなずいて蘭世は俊のとなりに駆け寄った。



「お祭りってどんなの?」

「あ~?まあいろいろ店が出たり、盆踊りしてたり…」

「へ~。楽しみ☆」

「食い過ぎんなよ」

「そ、そんなことしません!」

そう言い合いながら歩く。


(気使ってくれたんだよね…私イジけてたから…)


そう思うと蘭世は自分のこどもじみた行動に恥ずかしさを覚えながらも

嬉しくて顔がゆるんだ。

(やっぱり優しい…真壁くんは…)

そう思いながらもさっきの俊の視線を思いだすとドクンと胸が弾けた。

(さっきのは何だったんだろう…)


それだけが心の奥にひっかかったままで首をひねる蘭世だったが、

この後の楽しいイベントに思いをはせると足取りも驚くほど軽くなるのだった。



<END>



+あとがき+

不器用な二人デスね
俊のわけのわからない(笑)硬派な感じが出てればいいんですけど^^;





















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