ときめきLOVERS
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かくしごと 1
俊×蘭世 中学時代 江藤家の秘密の地下室のイベ出品作品です
転生直前に蘭世が俊の夢に入った時のお話。
というかこの作品では転生しないことになってますので
原作とはかけ離れております。ご注意を☆
昨日の夢に出てきたアイツは
いつになく儚げで
どことなく魅惑的で
この腕の中にいつまでもとどめておきたかった・・・・・。
+++++
「ぶぇっくしょい!!!」
体全体を使っての大きなくしゃみ。
鼻をズズズっとすすっていると、華枝は呆れた顔でティッシュBOXを俊に差し出した。
「なぁに?風邪でもひいたの?」
俊は黙ってそれを受け取るとズンと鼻をかんだ。
「窓開けて寝たみたいで・・・」
「やだ。この寒いのに?気をつけなさいよ?」
華枝が首をすくめながら朝食の支度に戻っていくのを
俊は複雑な思いで見送っていた。
(・・・閉めたはずなんだけど・・・)
そう思いながら俊は昨夜の夢のことを脳裏に思い出していた。
昨晩の夢・・・・。
そう、それはなんとも形容しがたい、初めてみる類の夢だった。
夢であるはずなのに夢でないような。
非現実的な内容なのに、
やけに鮮明で、やけに明瞭で、やけにリアルだった。
何気なくそっと自分の唇に触れてみる。
そう確かに夢のはずなのに、唇に残る感触・・。
そして腕と胸に残る温かさ。
顔を彼女の髪にうずめた時に鼻腔に広がった甘い香り。
全てが夢であったとわかっているはずなのに、
拭いきれない感覚が俊を戸惑わせていた。
昨晩の夢・・・・。
そう、ジムの夢を見た。
何の変哲もないよくある夢。
そこに江藤蘭世が登場する。
それもいつもと特に変わりはない。
普段からよくジムの夢を見て、そこに江藤蘭世が登場するのもよくあることだ。
蘭世がよく夢に出てくるなんて、本人には言ったことはないが
(大騒ぎするのは目に見えている)
自分の中ではそう珍しいことでもなかったのだ。
しかし、いつもの夢とはそこからが違った。
二人になりたいというアイツにドキリとしながらも
場面は宇宙空間に変わっていた。
今思えば、何で宇宙なんだと自分でもつっこみたくなるが、
それも夢らしいと言えば夢らしい。
しかし、そこから、まさかあんな展開になっていくなんて
思いもしなかったし、今まではそんな夢は見たことがなかったから
正直、動揺している。
彼女は妙なことを言い出した。
自分はモンスターだと。
しかも噛みついた相手に変身する吸血鬼だという。
夢の中で俊は笑い飛ばした。
いや、たとえ夢でなかったとしても笑い飛ばしているだろう。
しかし、その場面での蘭世はいつになく真剣でそして切実としていた。
そう・・・夢なのだから、彼女が何を言い出そうと、
たとえその中で何が起ころうとも不思議なことはない。
逆に夢とはそういうものでこそある。
そういえば、昨日、江藤家のパーティーでも
オヤジさんに吸血鬼や狼人間などを信じるかなんて聞かれたし、
そのことがずっと頭に残っていたせいで夢の中でもあんな話になったのかもしれない。
その相手が蘭世だった云々は関係なく・・・。
しかし、だとしてもだ。
何故あのまま笑い飛ばせなかったのか。
何故そこからあんな展開になってしまったのか。
・・・真壁くんが好きなの・・・
・・・いけないことなの?・・・
夢の中で泣きじゃくりながらそう訴えた蘭世の姿が
今でも鮮明に俊の脳裏に蘇る。
夢なのに、
現実に本人がそういったわけでもないのに、
あの場面を思い出すだけで俊の胸が軋む。
俊は表現できない複雑なモヤモヤしたこの拭いきれない気持ちを
持て余したまま、華枝が焼いてくれたパンを黙々と口に運んだ。
<つづく>
転生直前に蘭世が俊の夢に入った時のお話。
というかこの作品では転生しないことになってますので
原作とはかけ離れております。ご注意を☆
昨日の夢に出てきたアイツは
いつになく儚げで
どことなく魅惑的で
この腕の中にいつまでもとどめておきたかった・・・・・。
+++++
「ぶぇっくしょい!!!」
体全体を使っての大きなくしゃみ。
鼻をズズズっとすすっていると、華枝は呆れた顔でティッシュBOXを俊に差し出した。
「なぁに?風邪でもひいたの?」
俊は黙ってそれを受け取るとズンと鼻をかんだ。
「窓開けて寝たみたいで・・・」
「やだ。この寒いのに?気をつけなさいよ?」
華枝が首をすくめながら朝食の支度に戻っていくのを
俊は複雑な思いで見送っていた。
(・・・閉めたはずなんだけど・・・)
そう思いながら俊は昨夜の夢のことを脳裏に思い出していた。
昨晩の夢・・・・。
そう、それはなんとも形容しがたい、初めてみる類の夢だった。
夢であるはずなのに夢でないような。
非現実的な内容なのに、
やけに鮮明で、やけに明瞭で、やけにリアルだった。
何気なくそっと自分の唇に触れてみる。
そう確かに夢のはずなのに、唇に残る感触・・。
そして腕と胸に残る温かさ。
顔を彼女の髪にうずめた時に鼻腔に広がった甘い香り。
全てが夢であったとわかっているはずなのに、
拭いきれない感覚が俊を戸惑わせていた。
昨晩の夢・・・・。
そう、ジムの夢を見た。
何の変哲もないよくある夢。
そこに江藤蘭世が登場する。
それもいつもと特に変わりはない。
普段からよくジムの夢を見て、そこに江藤蘭世が登場するのもよくあることだ。
蘭世がよく夢に出てくるなんて、本人には言ったことはないが
(大騒ぎするのは目に見えている)
自分の中ではそう珍しいことでもなかったのだ。
しかし、いつもの夢とはそこからが違った。
二人になりたいというアイツにドキリとしながらも
場面は宇宙空間に変わっていた。
今思えば、何で宇宙なんだと自分でもつっこみたくなるが、
それも夢らしいと言えば夢らしい。
しかし、そこから、まさかあんな展開になっていくなんて
思いもしなかったし、今まではそんな夢は見たことがなかったから
正直、動揺している。
彼女は妙なことを言い出した。
自分はモンスターだと。
しかも噛みついた相手に変身する吸血鬼だという。
夢の中で俊は笑い飛ばした。
いや、たとえ夢でなかったとしても笑い飛ばしているだろう。
しかし、その場面での蘭世はいつになく真剣でそして切実としていた。
そう・・・夢なのだから、彼女が何を言い出そうと、
たとえその中で何が起ころうとも不思議なことはない。
逆に夢とはそういうものでこそある。
そういえば、昨日、江藤家のパーティーでも
オヤジさんに吸血鬼や狼人間などを信じるかなんて聞かれたし、
そのことがずっと頭に残っていたせいで夢の中でもあんな話になったのかもしれない。
その相手が蘭世だった云々は関係なく・・・。
しかし、だとしてもだ。
何故あのまま笑い飛ばせなかったのか。
何故そこからあんな展開になってしまったのか。
・・・真壁くんが好きなの・・・
・・・いけないことなの?・・・
夢の中で泣きじゃくりながらそう訴えた蘭世の姿が
今でも鮮明に俊の脳裏に蘇る。
夢なのに、
現実に本人がそういったわけでもないのに、
あの場面を思い出すだけで俊の胸が軋む。
俊は表現できない複雑なモヤモヤしたこの拭いきれない気持ちを
持て余したまま、華枝が焼いてくれたパンを黙々と口に運んだ。
<つづく>
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恋路ひとえに 3
俊×蘭世 中学時代
「帰ろうかな」
蘭世は鞄を手に取ると歩き出した。
そして渡り廊下の角を曲がったところではっと立ち止まった。
そこには俊と例の彼女が向かい合って立っていた。
(げぇ…気持ちが落ち着いたと思ったとたんにまた出くわしてしまった…)
蘭世は何か言おうかと迷っているうちに女の子は蘭世の姿を見てとると
ぐっと唇をかみしめてそして目を潤ませたかと思うと、そこから走り去った。
「あ、ちょ、ちょっと…」
蘭世が呼び止めるのも聞かずにその子はそのまま消えていった。
「い、いいの?真壁くん」
「何が」
「…追わなくて。。。」
「何で俺が追うんだよ」
「だって…」
「・・・・」
「・・・・」
お互い無言のままその場に静かな空気だけが流れる。
追ってほしくないくせにそんな言葉が出てしまった自分に苛立ちすら覚える。
「お前こそ、何かあったんじゃねえのか」
「えっ?」
「なんつーか…元気なかっただろ?朝から…」
・・・今日の蘭世が元気ないところってきっと真壁くんも気づいてるよ・・・
楓の言葉が耳にこだまする。
切なく響く。
うん…真壁くん…気づいてくれてたみたい…。
嬉しいけど、切ないよ…楓ちゃん・・・。
「あの子…真壁くんのこと好き…なんだよね…」
「は?」
「ごめん…私聞いちゃったの。昨日…彼女が真壁くんにシャツを貸してほしいって
頼んでるところ」
俊はぎょっと目を見開いて持っていた紙袋に目をやると、さっと後ろに隠した。
「な、なんで隠すの?」
「えっ!?あ、これは…別に。。。」
「返してもらったとこだった?ご、ごめんね、なんかタイミング悪いところに
遭遇しちゃったみたいで」
「別にそんなんじゃねえよ」
「元気なかったのはそのせいなの」
「え。。。?」
「私が勝手に傷ついて悩んで落ち込んでただけ…。ごめんね。
真壁くんは何も悪くないのに」
「…」
「それだけ。あ、でももう大丈夫。今は元気よ☆心配してくれてありがとう。
真壁くんが心配してくれただけで嬉しい☆」
そういって蘭世はフンっとガッツポーズをして見せる。
俊はそんな蘭世をあっけにとられた顔で見ていたが、ふぅと一つ息を吐いた。
「何か…お前にはかなわねえな…」
「え?何が?」
「そんなに服を貸してほしいならお前にもやるよ。ほら」
そういって俊は持っていた袋を蘭世にポンと投げた。
「えっ・・・っと、あわわ…」
落としそうになって蘭世は必死でそれをつかむと胸元に抱き寄せた。
「それで気が済んだか?」
「えっ?」
「それで、お前が元気になるならそんな服やるよ。煮るなり焼くなり好きにしろ」
「…わ、私はそういうつもりじゃ…」
「その代わり…」
「・・・」
「いちいち一喜一憂しないでくれ。
…こっちが参るんだよ、お前が元気ねえと・・」
「え…それってどういう…」
「うるさいっ!!いちいち聞くな!///じゃあな」
そういうと俊はぱっとその場から駆け出してしまった。
「あ…ちょっと真壁くん!」
楓ちゃん…
私…あの子より私の方がって思っちゃってもいいのかな…。
あの子のこと気にしながら、それでもエゴイストになってしまっていいのかな…。
だって・・・だって・・・
なんだか嬉しくて…涙が出るよ…。
そういって蘭世は俊に投げ渡された袋に顔を埋めて
騒ぎ出した鼓動が治まるのを壁にもたれてゆっくりと待った。
この服を彼女もこうやってぎゅっと抱きしめたに違いない。
俊が彼女に何をどう告げたのかはわからないが、彼女の瞳から
あふれ出しそうになった涙が全てを物語っている気がした。
あの子の気持ちを思うと胸がいたい。
それでも、それでもやっぱり俊を好きだという気持ちは変えられないのだ。
恋ってそういうもの。
切なくて痛くて、それでいて・・・・一途なものなのだ。
(真壁くん・・・)
やっぱり私・・・真壁くんが好きです・・・・
蘭世はそう心で唱えるともう一度その袋をぎゅっと抱きしめた。
<END>
+あとがき+
中学の時、大好きだった男の子から服を借りたことがあります。
まさにこんな状況。ドキドキしましたー☆
優しい人だったので王子のようにぶつくさ言わずに快諾してくれましたけど(笑)
返した後にその服を着てくれているのを見たときは
心臓が飛び出そうになりました☆
淡い思い出ですw
「帰ろうかな」
蘭世は鞄を手に取ると歩き出した。
そして渡り廊下の角を曲がったところではっと立ち止まった。
そこには俊と例の彼女が向かい合って立っていた。
(げぇ…気持ちが落ち着いたと思ったとたんにまた出くわしてしまった…)
蘭世は何か言おうかと迷っているうちに女の子は蘭世の姿を見てとると
ぐっと唇をかみしめてそして目を潤ませたかと思うと、そこから走り去った。
「あ、ちょ、ちょっと…」
蘭世が呼び止めるのも聞かずにその子はそのまま消えていった。
「い、いいの?真壁くん」
「何が」
「…追わなくて。。。」
「何で俺が追うんだよ」
「だって…」
「・・・・」
「・・・・」
お互い無言のままその場に静かな空気だけが流れる。
追ってほしくないくせにそんな言葉が出てしまった自分に苛立ちすら覚える。
「お前こそ、何かあったんじゃねえのか」
「えっ?」
「なんつーか…元気なかっただろ?朝から…」
・・・今日の蘭世が元気ないところってきっと真壁くんも気づいてるよ・・・
楓の言葉が耳にこだまする。
切なく響く。
うん…真壁くん…気づいてくれてたみたい…。
嬉しいけど、切ないよ…楓ちゃん・・・。
「あの子…真壁くんのこと好き…なんだよね…」
「は?」
「ごめん…私聞いちゃったの。昨日…彼女が真壁くんにシャツを貸してほしいって
頼んでるところ」
俊はぎょっと目を見開いて持っていた紙袋に目をやると、さっと後ろに隠した。
「な、なんで隠すの?」
「えっ!?あ、これは…別に。。。」
「返してもらったとこだった?ご、ごめんね、なんかタイミング悪いところに
遭遇しちゃったみたいで」
「別にそんなんじゃねえよ」
「元気なかったのはそのせいなの」
「え。。。?」
「私が勝手に傷ついて悩んで落ち込んでただけ…。ごめんね。
真壁くんは何も悪くないのに」
「…」
「それだけ。あ、でももう大丈夫。今は元気よ☆心配してくれてありがとう。
真壁くんが心配してくれただけで嬉しい☆」
そういって蘭世はフンっとガッツポーズをして見せる。
俊はそんな蘭世をあっけにとられた顔で見ていたが、ふぅと一つ息を吐いた。
「何か…お前にはかなわねえな…」
「え?何が?」
「そんなに服を貸してほしいならお前にもやるよ。ほら」
そういって俊は持っていた袋を蘭世にポンと投げた。
「えっ・・・っと、あわわ…」
落としそうになって蘭世は必死でそれをつかむと胸元に抱き寄せた。
「それで気が済んだか?」
「えっ?」
「それで、お前が元気になるならそんな服やるよ。煮るなり焼くなり好きにしろ」
「…わ、私はそういうつもりじゃ…」
「その代わり…」
「・・・」
「いちいち一喜一憂しないでくれ。
…こっちが参るんだよ、お前が元気ねえと・・」
「え…それってどういう…」
「うるさいっ!!いちいち聞くな!///じゃあな」
そういうと俊はぱっとその場から駆け出してしまった。
「あ…ちょっと真壁くん!」
楓ちゃん…
私…あの子より私の方がって思っちゃってもいいのかな…。
あの子のこと気にしながら、それでもエゴイストになってしまっていいのかな…。
だって・・・だって・・・
なんだか嬉しくて…涙が出るよ…。
そういって蘭世は俊に投げ渡された袋に顔を埋めて
騒ぎ出した鼓動が治まるのを壁にもたれてゆっくりと待った。
この服を彼女もこうやってぎゅっと抱きしめたに違いない。
俊が彼女に何をどう告げたのかはわからないが、彼女の瞳から
あふれ出しそうになった涙が全てを物語っている気がした。
あの子の気持ちを思うと胸がいたい。
それでも、それでもやっぱり俊を好きだという気持ちは変えられないのだ。
恋ってそういうもの。
切なくて痛くて、それでいて・・・・一途なものなのだ。
(真壁くん・・・)
やっぱり私・・・真壁くんが好きです・・・・
蘭世はそう心で唱えるともう一度その袋をぎゅっと抱きしめた。
<END>
+あとがき+
中学の時、大好きだった男の子から服を借りたことがあります。
まさにこんな状況。ドキドキしましたー☆
優しい人だったので王子のようにぶつくさ言わずに快諾してくれましたけど(笑)
返した後にその服を着てくれているのを見たときは
心臓が飛び出そうになりました☆
淡い思い出ですw
恋路ひとえに 2
俊×蘭世 中学時代
文化祭当日ーーーーー。
答えの出ない悲しみに蘭世は眠れないまま一夜を過ごした。
あれだけ楽しみにしていた文化祭なのに、昨日のあの現場に出くわしてからは
一気に気持ちが落ち込んでしまった。
しかし、だからといって休むわけにもいかず、そのまま蘭世は登校した。
ここ数日の気持ちの高まりが一気にこの日に向けて放たれたものであることを
再確認できるくらいの盛り上がりがそこにあった。
開催時間まではまだ1時間ほどあるのに、学校の中は早くも祭りムード一色で
ここだけ世間からは隔離された別世界だった。
教室に向かうと、廊下で昨日の女の子を見かけた。
別の子とすでにシャツに袖を通してとびっきりの笑顔がそこにあった。
(真壁くんのシャツなんだ・・・)
あれから二人がどんな会話をして、そしてどんな風に俊が彼女にそのシャツを渡して
どんな風に彼女がそのシャツを受け取ったのか、どんな風に別れたのかは
わからない。
しかし、彼女が俊の服を着ているということが蘭世の心をまた締め付けた、
彼女があの俊の服に腕を通す瞬間、いったいどんな気持ちでいたのだろう。
俊を想い、胸に抱いて、ドキドキしながらそのシャツを着る。
まるで自分が俊に包まれているようなそんな感覚さえ覚えたりして…。
ヤキモチ、嫉妬、羨望・・・
なんなのかわからない。
いや、どれにも当てはまるのだろう。
でも、それを制止することなんて自分にはできないことが
一番悲しいのかもしれない。
だって私は真壁くんの彼女でもなんでもないんだから。
ただの私の片思いなんだから。
目を伏せて教室に入ると、そこにはすでに俊も来ていた。
(ううぅ・・・よりによって・・・)
「真壁がこんな日にこんな早く来てるなんて意外だなあ」
「うるせぇ」
クラスメイトと談笑していた俊が教室に入ってきた蘭世を見つけた。
「オッス」
「お、おはよ」
俊から声をかけてくれるなんていつもなら飛び上るほど嬉しいはずなのに、
響はどうしてもうまく笑えない。
それに俊も気づいたのか「ん?」と首をかしげた。
「どうかしたのか?」
「え?何が?」
「・・・やけに大人しいから」
自分のことを気遣ってくれる俊の言葉が今日はとても切ない。
嬉しいのに、素直に喜べない。
「え?そ、そうかな?ちょっと昨日眠れなくて…寝不足かな?」
そういって蘭世は笑顔を作った。
「なんだよ。楽しみすぎてか?ガキみてえ」
俊はそういうとクッと笑った。
そうよ…楽しみだったの。
真壁くんと一緒に楽しみたかったのに・・・。
蘭世は目は熱く潤ってくるのを感じてその場から駆け出した。
「お、おい!江藤!」
俊が背後から呼ぶのにも振り返れない。
蘭世はそのまま教室を出て行った。
「あっら?真壁、江藤とケンカでもしたのか?」
「別に、んなんじゃねえよ」
そういいながらも俊は釈然としない気持ちを抱えながら
蘭世の出ていった方を見つめていた。
+++++
空は高く秋晴れーーーーー。
雲一つない青い澄み切った空を見上げると蘭世はほぉっと深く息を吐いた。
文化祭は滞りなく無事閉幕した。
鈴世の案内をしたり、クラスの催しもうまくいってその慌ただしさに
身を置いていると落ち込んでいた気持ちは幾分薄れてきた。
そして逆に八つ当たりのようになってしまった俊への態度にも
今は後悔を覚えていた。
(真壁くんは何にも悪くなくて、私だけが勝手に思い悩んでいるだけなのに)
しかし、なんだかうまく目を合わせられなくて俊を避けてしまった。
何かいいたげにしていたようだけど、逃げるようにして避けてしまった。
「あ~あ」
うまくいかない気持ちにもどかしさを感じて蘭世はため息を吐いた。
「ため息なんてどうしたの?蘭世らしくないよ」
振り向くとそこには楓が立っていた。
「なんか元気ないね」
「え?そ、そう?」
蘭世がドキッとした顔をさせると楓はニコっと微笑んだ。
「だって、真壁くんと話さない蘭世なんて珍しいじゃない。一目瞭然よ」
「そ、そっか…私ってば、わかりやすいのかな」
「くす…そうね」
「ガーン」
「でもそれが蘭世のいいところでしょ?」
「・・・楓ちゃん・・・」
蘭世の目から涙があふれ出した。
そして抱えていた思いがそれと一緒に一気に流れ出した。
+++++
「・・・バカね。蘭世ったら」
楓は二人座ったベンチで蘭世の肩にそっと手を置いた。
「真壁くんがシャツを貸しただけのことでしょ」
「…そうなんだけどね」
「でもしょうがないよ。たぶん、それが恋ってヤツじゃないの?」
「恋?」
「好きな人の言動一つで舞い上がったり、落ち込んだり…
辛いこともあるけど嬉しいこともいっぱいあって…」
「…うん」
「でもそこでへこたれないのが蘭世じゃないの?」
「…へ?私?」
「あの神谷さんにあれだけ対抗できるのに、相手が変わっちゃったらだめなの?」
「で、でも…神谷さんとはタイプが違うというか…あんな真剣に
迫られちゃったら真壁くんも心が動くんじゃないかって・・・」
「で、どうなの?動いた感じなの?」
「・・・わかんない」
「いつもはあんなに真壁くんにぶつかっていってるのに、今回はどうした?
蘭世らしくないよ」
「・・・確かにそうだね」
「それに、真壁くんはそれくらいじゃ心動かないと思うよ」
「な、なんで?」
「真壁くんってあんなだし、神谷さんがいたからあまり誰も近づかなかったけど、
昔からよくモテたの」
「…そうだよね。…かっこいいし…」
「でも告白とかされても全然振り向かないのよね。硬派というか、なんというか」
「・・・」
「彼女のことはともかく、真壁くんはそんな突然の告白とかで
心が動く人じゃないのよね」
「それって…やっぱ私もダメってことかな…」
「あーそうじゃなくて。。。そんな真壁くんが蘭世のことをとにかく気にしてるでしょ?
それってすごい変化だと思うのよね」
「真壁くんが私を気にしてる!?まさかそんなわけないでしょ」
「気づいてないのは蘭世だけでしょ」
「う、嘘だ…」
「蘭世が元気ないのきっと真壁くんも気づいてるよ。
それって今までの真壁くんから考えたらすごく大きなことだと思うのよね」
「・・・」
「クヨクヨしてるなんた蘭世らしくないよ。真壁くんにだって心配かけたくないでしょ?」
「うん…そうだよね。私…なんかちょっと元気出てきた」
「キューピッドみたいな力、私持ってないけど、話聞いてあげることぐらいは
できるんだから、一人で悩まないで」
「うん。ありがとう!楓ちゃん」
+++++
恋ってよくわからない。
自分がどうしたいのか、真壁くんにどうしてほしいのか。
こんなに自分が欲張りだったなんてしらなかった。
ただ、真壁くんが好きなだけなのに…。
たぶん、あの女の子もきっと同じ気持ちなんだろう。
せっかくのこの機会に勇気を振り絞った結果の行動だったんだろう。
真壁くんを想ってる女の子が他にもいたなんて全く気付いていなかったけれど、
あの子からしてみたら私の存在も神谷さんの存在も、
私があの子のことを思うような気もちときっと同じなんだろう。
誰もが同じ夢を見てる。
ただ、真壁くんを好きだという気持ちだけを抱えて。
顔を上げて空を仰ぐと気持ちはなぜかスッとした。
不思議だ。
そういえば昨日から一人でずっとうつむきっぱなしだった気がする。
ずっと天気も良かったはずなのにそれもよく覚えていないほどに。
楓の心からの励ましもあって、蘭世の気持ちも少し前を向きだした。
「あんなことぐらいでウジウジなんて蘭世らしくないゾ!」
悩んだところでそれでも俊を好きだという気持ちは変わりないんだから…。
<つづく>
文化祭当日ーーーーー。
答えの出ない悲しみに蘭世は眠れないまま一夜を過ごした。
あれだけ楽しみにしていた文化祭なのに、昨日のあの現場に出くわしてからは
一気に気持ちが落ち込んでしまった。
しかし、だからといって休むわけにもいかず、そのまま蘭世は登校した。
ここ数日の気持ちの高まりが一気にこの日に向けて放たれたものであることを
再確認できるくらいの盛り上がりがそこにあった。
開催時間まではまだ1時間ほどあるのに、学校の中は早くも祭りムード一色で
ここだけ世間からは隔離された別世界だった。
教室に向かうと、廊下で昨日の女の子を見かけた。
別の子とすでにシャツに袖を通してとびっきりの笑顔がそこにあった。
(真壁くんのシャツなんだ・・・)
あれから二人がどんな会話をして、そしてどんな風に俊が彼女にそのシャツを渡して
どんな風に彼女がそのシャツを受け取ったのか、どんな風に別れたのかは
わからない。
しかし、彼女が俊の服を着ているということが蘭世の心をまた締め付けた、
彼女があの俊の服に腕を通す瞬間、いったいどんな気持ちでいたのだろう。
俊を想い、胸に抱いて、ドキドキしながらそのシャツを着る。
まるで自分が俊に包まれているようなそんな感覚さえ覚えたりして…。
ヤキモチ、嫉妬、羨望・・・
なんなのかわからない。
いや、どれにも当てはまるのだろう。
でも、それを制止することなんて自分にはできないことが
一番悲しいのかもしれない。
だって私は真壁くんの彼女でもなんでもないんだから。
ただの私の片思いなんだから。
目を伏せて教室に入ると、そこにはすでに俊も来ていた。
(ううぅ・・・よりによって・・・)
「真壁がこんな日にこんな早く来てるなんて意外だなあ」
「うるせぇ」
クラスメイトと談笑していた俊が教室に入ってきた蘭世を見つけた。
「オッス」
「お、おはよ」
俊から声をかけてくれるなんていつもなら飛び上るほど嬉しいはずなのに、
響はどうしてもうまく笑えない。
それに俊も気づいたのか「ん?」と首をかしげた。
「どうかしたのか?」
「え?何が?」
「・・・やけに大人しいから」
自分のことを気遣ってくれる俊の言葉が今日はとても切ない。
嬉しいのに、素直に喜べない。
「え?そ、そうかな?ちょっと昨日眠れなくて…寝不足かな?」
そういって蘭世は笑顔を作った。
「なんだよ。楽しみすぎてか?ガキみてえ」
俊はそういうとクッと笑った。
そうよ…楽しみだったの。
真壁くんと一緒に楽しみたかったのに・・・。
蘭世は目は熱く潤ってくるのを感じてその場から駆け出した。
「お、おい!江藤!」
俊が背後から呼ぶのにも振り返れない。
蘭世はそのまま教室を出て行った。
「あっら?真壁、江藤とケンカでもしたのか?」
「別に、んなんじゃねえよ」
そういいながらも俊は釈然としない気持ちを抱えながら
蘭世の出ていった方を見つめていた。
+++++
空は高く秋晴れーーーーー。
雲一つない青い澄み切った空を見上げると蘭世はほぉっと深く息を吐いた。
文化祭は滞りなく無事閉幕した。
鈴世の案内をしたり、クラスの催しもうまくいってその慌ただしさに
身を置いていると落ち込んでいた気持ちは幾分薄れてきた。
そして逆に八つ当たりのようになってしまった俊への態度にも
今は後悔を覚えていた。
(真壁くんは何にも悪くなくて、私だけが勝手に思い悩んでいるだけなのに)
しかし、なんだかうまく目を合わせられなくて俊を避けてしまった。
何かいいたげにしていたようだけど、逃げるようにして避けてしまった。
「あ~あ」
うまくいかない気持ちにもどかしさを感じて蘭世はため息を吐いた。
「ため息なんてどうしたの?蘭世らしくないよ」
振り向くとそこには楓が立っていた。
「なんか元気ないね」
「え?そ、そう?」
蘭世がドキッとした顔をさせると楓はニコっと微笑んだ。
「だって、真壁くんと話さない蘭世なんて珍しいじゃない。一目瞭然よ」
「そ、そっか…私ってば、わかりやすいのかな」
「くす…そうね」
「ガーン」
「でもそれが蘭世のいいところでしょ?」
「・・・楓ちゃん・・・」
蘭世の目から涙があふれ出した。
そして抱えていた思いがそれと一緒に一気に流れ出した。
+++++
「・・・バカね。蘭世ったら」
楓は二人座ったベンチで蘭世の肩にそっと手を置いた。
「真壁くんがシャツを貸しただけのことでしょ」
「…そうなんだけどね」
「でもしょうがないよ。たぶん、それが恋ってヤツじゃないの?」
「恋?」
「好きな人の言動一つで舞い上がったり、落ち込んだり…
辛いこともあるけど嬉しいこともいっぱいあって…」
「…うん」
「でもそこでへこたれないのが蘭世じゃないの?」
「…へ?私?」
「あの神谷さんにあれだけ対抗できるのに、相手が変わっちゃったらだめなの?」
「で、でも…神谷さんとはタイプが違うというか…あんな真剣に
迫られちゃったら真壁くんも心が動くんじゃないかって・・・」
「で、どうなの?動いた感じなの?」
「・・・わかんない」
「いつもはあんなに真壁くんにぶつかっていってるのに、今回はどうした?
蘭世らしくないよ」
「・・・確かにそうだね」
「それに、真壁くんはそれくらいじゃ心動かないと思うよ」
「な、なんで?」
「真壁くんってあんなだし、神谷さんがいたからあまり誰も近づかなかったけど、
昔からよくモテたの」
「…そうだよね。…かっこいいし…」
「でも告白とかされても全然振り向かないのよね。硬派というか、なんというか」
「・・・」
「彼女のことはともかく、真壁くんはそんな突然の告白とかで
心が動く人じゃないのよね」
「それって…やっぱ私もダメってことかな…」
「あーそうじゃなくて。。。そんな真壁くんが蘭世のことをとにかく気にしてるでしょ?
それってすごい変化だと思うのよね」
「真壁くんが私を気にしてる!?まさかそんなわけないでしょ」
「気づいてないのは蘭世だけでしょ」
「う、嘘だ…」
「蘭世が元気ないのきっと真壁くんも気づいてるよ。
それって今までの真壁くんから考えたらすごく大きなことだと思うのよね」
「・・・」
「クヨクヨしてるなんた蘭世らしくないよ。真壁くんにだって心配かけたくないでしょ?」
「うん…そうだよね。私…なんかちょっと元気出てきた」
「キューピッドみたいな力、私持ってないけど、話聞いてあげることぐらいは
できるんだから、一人で悩まないで」
「うん。ありがとう!楓ちゃん」
+++++
恋ってよくわからない。
自分がどうしたいのか、真壁くんにどうしてほしいのか。
こんなに自分が欲張りだったなんてしらなかった。
ただ、真壁くんが好きなだけなのに…。
たぶん、あの女の子もきっと同じ気持ちなんだろう。
せっかくのこの機会に勇気を振り絞った結果の行動だったんだろう。
真壁くんを想ってる女の子が他にもいたなんて全く気付いていなかったけれど、
あの子からしてみたら私の存在も神谷さんの存在も、
私があの子のことを思うような気もちときっと同じなんだろう。
誰もが同じ夢を見てる。
ただ、真壁くんを好きだという気持ちだけを抱えて。
顔を上げて空を仰ぐと気持ちはなぜかスッとした。
不思議だ。
そういえば昨日から一人でずっとうつむきっぱなしだった気がする。
ずっと天気も良かったはずなのにそれもよく覚えていないほどに。
楓の心からの励ましもあって、蘭世の気持ちも少し前を向きだした。
「あんなことぐらいでウジウジなんて蘭世らしくないゾ!」
悩んだところでそれでも俊を好きだという気持ちは変わりないんだから…。
<つづく>
恋路ひとえに 1
俊×蘭世 中学時代
原作の流れには即してませんのであしからず。。。
こんな気持ちを恋と呼ぶのなら
恋というものはなんて切ないんだろう。
+++++
校庭の木々も徐々に色づき始めたそんな秋の日だった。
文化祭を目前に控えて少し浮足立ったその歩調を落ち着かせるのに苦労しながら
蘭世は鞄を抱えて教室から出てきた。
文化祭の準備で少し遅くなったがまだ日が沈むほどではない。
生まれてはじめての文化祭というものに蘭世は心躍らせていた。
このあけぼの中学に転入するまではほとんど社会経験というものを
してこなかった蘭世にとって、学校の出来事は楽しいことばかりだった。
授業やテストは正直苦手ではあったが、それよりももっと楽しいことの方が
多かった。
日々催される行事もすべて初めてのことばかりで、
そして明日に迫った文化祭も例外ではない。
筒井くんをクラスで呼ぶという予想だにしない(むしろ意に反する)
展開にはなってしまったものの、それでもクラス中はその準備に向けて
盛り上がっていたし、蘭世自身はその他のクラスの出し物なども楽しみにしていた。
クラスで舞台劇をやるところもあれば、歌を歌うところ、模擬店をするところや、
お化け屋敷のような催しなどもあって
それれのクラスは連日の準備や練習に遅くまで居残っているようで
まだ校内はあちらこちらでにぎやかな声が響いていた。
学校全体が普段とは違う勢いづいた空気に包まれているのを蘭世は肌で感じた、
その空気に自然と自分がなじみ一緒に心逸っているのが楽しくてしょうがない。
あとはそばに真壁くんがいてくれればなぁ…と
蘭世はふっと肩をすくめた。
+++++
俊はこんな行事には至って無関心だ。
教室中がどんなに騒いでいても一人どこ吹く風と素知らぬ顔だし、
それがクラスメイトの中でもいつものこととして特に取りだたされることもない。
この前の臨海学校での旬の行動はそれだけに意表をついたことだったし、
ラストのフォークダンスに蘭世が無理やりにでも俊を引っ張り出したことは
さらに皆を驚かせた。
真壁くんはただただシャイなだけなんだから…
蘭世は明日の文化祭当日には絶対俊を出席させようと意気込んでいた、
絶対にみんなの輪に入った方が楽しいんだから…と。
だけどそれはホントは建前。
ホントはただ俊と一緒に文化祭を楽しみたいだけ。
校内に俊の姿がないのがたださびしいだけなのだ。
そう、恋というものはただそれだけ。
学校に来て、いろんなことを知って経験して、
そして、恋というものを初めて知った。
あの人を思うだけで心が騒いで眠れなくて、ただいつもそばにいたいと思う。
響も俊は自分の与えられた役割だけをとっとと澄ますと
「お先に」といって帰ってしまった。
例えば待ち合わせをして一緒に帰って・・・とかできたら
どんなに素敵なんだろう。。。、
そして明日の文化祭はちょっとしたデートみたいに一緒に回って…vvv
蘭世は抱えたカバンをギューッと握りしめていつもの甘い妄想を繰り広げた。
そして何気なく銀杏並木に目をやった時、蘭世のビクン胸が鳴った。
あっ真壁くん…!!
帰ったとばかり思っていた俊が銀杏の木に背中を預けて立っていたのだ。
より、明日の文化祭のことを誘うチャンス!
と蘭世は俊の方に駆け寄ろうとした。その時、
俊の前に一人の女の子も立っていることに気づいた。
え・・・何・・・?
俊のこういう現場を見ることなんて早々ない。
女の子たちは俊には怖がってあまり近づかないし、俊自身が女には興味がないと
まで言っているのだから
蘭世にはその光景の意味するところがピンと来なかった。
誰だろう・・・。
いやに物々しい感じがして、それでいて、曜子と俊が向き合っている時のように
入り込んでいける空気ではない。
女の子は少しうつむき加減で少し顔を赤らめて、
俊は不機嫌とまではいかない困ったような顔をしていた。
しかし、この距離だと何を話しているのか聞こえず、蘭世は歯がゆくなった。
う~ん・・・何話してるんだろう・・・き、聞きたいっ!
盗み聞きなんてよくないってわかってるんだけど…
そう思った気持ちはもう抑えきれなくて。
蘭世はキョロキョロと見渡すと「あっ!ロッキーちゃん!」と
いつものタイミングの悪い?猫を見つけた途端・・・
「ガジっ!!」
思い切り蘭世は噛みついた。
+++++
猫になった姿で蘭世はそっと俊の後ろに回り込んだ。
ロッキーのことは俊も知っているのだからあまり姿を見せるのもよくない。
そっと背後から聞き耳を立てる。
「お願いします」
「・・・だからなんで俺のなわけ?」
「それは…///」
「他にいんだろ?シャツを貸してくれるヤツなんて」
「・・・真壁くんから借りたいんです!」
意を決したように女の子は手を胸で握りしめて俊を見つめた。
「・・・・」
その姿に俊も口を閉ざす。
恋だ・・・
恋をしている目だ。
真壁くんを好きな自分だからわかる。
女の子は確か隣のクラスの女子だ。
そういえば、他の子がクラスで出し物の衣装をそろえるために
男子の制服の開襟シャツを借りるという話を先日耳にした、
隣のクラスの話だからとその場ではふーんと聞き流していたが、
まさかその動きが俊にまで及ぶだなんて蘭世は予想だにしていなかった。
しかも、まさかこんな風に…。これではまさに告白と同じだ。。。
蘭世はドキドキしながらその場を見守る。
「…でも明日だろ?俺忘れるかも…」
「今からじゃだめですか?一緒に取りに伺ってはいけませんか?」
「えっ」
(えっ!!)
「今から・・・?」
「ご無理を言ってることはわかってます。でも、でも・・・お願いします!」
「・・・お願いします!・・・シャツを貸してくださるだけでいいんです。
終わったらすぐにお返ししますから!」
その勢いはたぶん誰にも止められない
一度心に決めた女性というものはなんて強いんだろう。
「・・・わかったよ」
俊はそれだけいうと、黙ってその場を離れて歩き出した。
(嘘・・・真壁くん!)
女の子ははっと我に返り、顔に笑みを戻して俊の後ろを小走りについていった。
蘭世はその後を追いかけようとしたが、足を前に出せなかった。
追いかけていくことがいい結果を生むとは思えなかった。
俊の「わかった」という言葉の真意はわからない。
だけど、少なくとも女の子の気持ちは今は幸せなものになったことは確かだ。
俊にとってはただシャツをかすだけの行為なのかもしれない。
あんなにお願いされたら貸すぐらいならと受け入れるだろう。
あれで完全に拒否していたら、蘭世の性格上、女の子の立場に立ってしまって
逆に俊を非難しかねない。
しかし。。。。
二人で去っていく後姿がこんなに心を傷めるものだなんて思いもしなかった。
(真壁くん・・・)
「ニャァ」
声にならない蘭世は痛む心を抱えてその場から走り出した。
<つづく>
原作の流れには即してませんのであしからず。。。
こんな気持ちを恋と呼ぶのなら
恋というものはなんて切ないんだろう。
+++++
校庭の木々も徐々に色づき始めたそんな秋の日だった。
文化祭を目前に控えて少し浮足立ったその歩調を落ち着かせるのに苦労しながら
蘭世は鞄を抱えて教室から出てきた。
文化祭の準備で少し遅くなったがまだ日が沈むほどではない。
生まれてはじめての文化祭というものに蘭世は心躍らせていた。
このあけぼの中学に転入するまではほとんど社会経験というものを
してこなかった蘭世にとって、学校の出来事は楽しいことばかりだった。
授業やテストは正直苦手ではあったが、それよりももっと楽しいことの方が
多かった。
日々催される行事もすべて初めてのことばかりで、
そして明日に迫った文化祭も例外ではない。
筒井くんをクラスで呼ぶという予想だにしない(むしろ意に反する)
展開にはなってしまったものの、それでもクラス中はその準備に向けて
盛り上がっていたし、蘭世自身はその他のクラスの出し物なども楽しみにしていた。
クラスで舞台劇をやるところもあれば、歌を歌うところ、模擬店をするところや、
お化け屋敷のような催しなどもあって
それれのクラスは連日の準備や練習に遅くまで居残っているようで
まだ校内はあちらこちらでにぎやかな声が響いていた。
学校全体が普段とは違う勢いづいた空気に包まれているのを蘭世は肌で感じた、
その空気に自然と自分がなじみ一緒に心逸っているのが楽しくてしょうがない。
あとはそばに真壁くんがいてくれればなぁ…と
蘭世はふっと肩をすくめた。
+++++
俊はこんな行事には至って無関心だ。
教室中がどんなに騒いでいても一人どこ吹く風と素知らぬ顔だし、
それがクラスメイトの中でもいつものこととして特に取りだたされることもない。
この前の臨海学校での旬の行動はそれだけに意表をついたことだったし、
ラストのフォークダンスに蘭世が無理やりにでも俊を引っ張り出したことは
さらに皆を驚かせた。
真壁くんはただただシャイなだけなんだから…
蘭世は明日の文化祭当日には絶対俊を出席させようと意気込んでいた、
絶対にみんなの輪に入った方が楽しいんだから…と。
だけどそれはホントは建前。
ホントはただ俊と一緒に文化祭を楽しみたいだけ。
校内に俊の姿がないのがたださびしいだけなのだ。
そう、恋というものはただそれだけ。
学校に来て、いろんなことを知って経験して、
そして、恋というものを初めて知った。
あの人を思うだけで心が騒いで眠れなくて、ただいつもそばにいたいと思う。
響も俊は自分の与えられた役割だけをとっとと澄ますと
「お先に」といって帰ってしまった。
例えば待ち合わせをして一緒に帰って・・・とかできたら
どんなに素敵なんだろう。。。、
そして明日の文化祭はちょっとしたデートみたいに一緒に回って…vvv
蘭世は抱えたカバンをギューッと握りしめていつもの甘い妄想を繰り広げた。
そして何気なく銀杏並木に目をやった時、蘭世のビクン胸が鳴った。
あっ真壁くん…!!
帰ったとばかり思っていた俊が銀杏の木に背中を預けて立っていたのだ。
より、明日の文化祭のことを誘うチャンス!
と蘭世は俊の方に駆け寄ろうとした。その時、
俊の前に一人の女の子も立っていることに気づいた。
え・・・何・・・?
俊のこういう現場を見ることなんて早々ない。
女の子たちは俊には怖がってあまり近づかないし、俊自身が女には興味がないと
まで言っているのだから
蘭世にはその光景の意味するところがピンと来なかった。
誰だろう・・・。
いやに物々しい感じがして、それでいて、曜子と俊が向き合っている時のように
入り込んでいける空気ではない。
女の子は少しうつむき加減で少し顔を赤らめて、
俊は不機嫌とまではいかない困ったような顔をしていた。
しかし、この距離だと何を話しているのか聞こえず、蘭世は歯がゆくなった。
う~ん・・・何話してるんだろう・・・き、聞きたいっ!
盗み聞きなんてよくないってわかってるんだけど…
そう思った気持ちはもう抑えきれなくて。
蘭世はキョロキョロと見渡すと「あっ!ロッキーちゃん!」と
いつものタイミングの悪い?猫を見つけた途端・・・
「ガジっ!!」
思い切り蘭世は噛みついた。
+++++
猫になった姿で蘭世はそっと俊の後ろに回り込んだ。
ロッキーのことは俊も知っているのだからあまり姿を見せるのもよくない。
そっと背後から聞き耳を立てる。
「お願いします」
「・・・だからなんで俺のなわけ?」
「それは…///」
「他にいんだろ?シャツを貸してくれるヤツなんて」
「・・・真壁くんから借りたいんです!」
意を決したように女の子は手を胸で握りしめて俊を見つめた。
「・・・・」
その姿に俊も口を閉ざす。
恋だ・・・
恋をしている目だ。
真壁くんを好きな自分だからわかる。
女の子は確か隣のクラスの女子だ。
そういえば、他の子がクラスで出し物の衣装をそろえるために
男子の制服の開襟シャツを借りるという話を先日耳にした、
隣のクラスの話だからとその場ではふーんと聞き流していたが、
まさかその動きが俊にまで及ぶだなんて蘭世は予想だにしていなかった。
しかも、まさかこんな風に…。これではまさに告白と同じだ。。。
蘭世はドキドキしながらその場を見守る。
「…でも明日だろ?俺忘れるかも…」
「今からじゃだめですか?一緒に取りに伺ってはいけませんか?」
「えっ」
(えっ!!)
「今から・・・?」
「ご無理を言ってることはわかってます。でも、でも・・・お願いします!」
「・・・お願いします!・・・シャツを貸してくださるだけでいいんです。
終わったらすぐにお返ししますから!」
その勢いはたぶん誰にも止められない
一度心に決めた女性というものはなんて強いんだろう。
「・・・わかったよ」
俊はそれだけいうと、黙ってその場を離れて歩き出した。
(嘘・・・真壁くん!)
女の子ははっと我に返り、顔に笑みを戻して俊の後ろを小走りについていった。
蘭世はその後を追いかけようとしたが、足を前に出せなかった。
追いかけていくことがいい結果を生むとは思えなかった。
俊の「わかった」という言葉の真意はわからない。
だけど、少なくとも女の子の気持ちは今は幸せなものになったことは確かだ。
俊にとってはただシャツをかすだけの行為なのかもしれない。
あんなにお願いされたら貸すぐらいならと受け入れるだろう。
あれで完全に拒否していたら、蘭世の性格上、女の子の立場に立ってしまって
逆に俊を非難しかねない。
しかし。。。。
二人で去っていく後姿がこんなに心を傷めるものだなんて思いもしなかった。
(真壁くん・・・)
「ニャァ」
声にならない蘭世は痛む心を抱えてその場から走り出した。
<つづく>
Aroused magic おまけ
俊×蘭世 中学時代 若干脚色あり
Aroused masic のおまけ作品です。
本編を先に読まれてからの方が楽しめます☆
その夜ーーーー。
必要以上の疲労を感じて俊は自分のベッドになだれ込むようにして横になった。
夕方味わった初めての感情に今もまだ翻弄されたままで
頭の中がモヤモヤと混沌としたままだ。
蘭世の姿が脳裏をよぎる…
(江藤…)
その時、ビュンっと強い風が吹いて俊はハッと飛び起きた。
そして何か白っぽい影のようなものが俊の目の前に浮かぶ。
な、なんだ…??
得体のしれないその正体を見極めるために俊はじっと目を凝らす。
開いたままのカーテンの間からは月光が惜しみなく部屋の中に注ぎ込んで
そのモノを鮮やかに映し出す。
それは・・・・
「誰だ…!?」
人らしきものが真っ黒いマントを背に着けたまま俊を背にしてそこに佇んでいた。
そしてそのものはゆっくりと俊に振り返る。
その拍子に漆黒の長い黒髪がマントの中から姿を現し、
俊はその存在にビクリとした。
心拍数が大きく跳ね上がる。
「え、江藤っ!?な、なんで…」
そこにいたものは、つい先ほどまで俊の脳裏から全く離れようとしなかった蘭世だった。
(なんで…ここに…)
そう俊は思ったもののあまりの驚きにそれは言葉になることはなく、ぐっと息を飲みこんだ。
心臓が口から飛び出してきそうなくらいドクンドクンと鳴り響いて呼吸すら乱れる。
そして次の瞬間に俊はそれ以上の衝撃を受け止めなければならなかった。
「なっ・・・!!!」
ゆっくりと振りかえった蘭世のそのマントの下は一糸まとわぬ姿であり
月の光に照らされたその白い肢体はまるで透き通るように鮮やかで
この世のものとも思えないほどだった。
普段では見られない無表情。
しかし、その瞳には鋭い力が込められていてその視線は
俊にまっすぐ向かっていた。
妖しくて、艶めかしいその蘭世の姿に俊は凝視せざるを得ない。
自慢の黒髪がマントと一体化されて蘭世の裸体の所々を覆っていて、
それが却ってコケティッシュだ。
驚きを通り越して俊は唖然とする。
なぜここに蘭世がいるのかもわからないし、
しかもなぜこんな姿でいるのかもわからない。
かといって、それを何故だと問いただすこともできないまま、
俊はその蘭世の姿をただ見つめることしかできなかった。
いや、
視線を離せないといったほうがしっくりくる。
月の光に照らされて青白く光るその肌に、その艶やかな黒髪に…。
ゆるやかな動きでマントをはためかせながら蘭世が俊の方に一歩ずつ近づいてくる。
その一歩ごとに俊の心臓はドクンと跳ね上がる。
しかし、それを制することも逃げることもできない。
動けないーーーーー。
蘭世は俊のいるベッドのそばまでたどり着くと、ゆっくりと俊の頬に向かって手を伸ばす。
そして俊を見つめるとニコリとほほ笑んだ。
(えっ?)
ふっと気持ちが軽くなる。
いつもの表情だ。
それまでは蘭世の姿をしていてもそれはまるで別人のように感じていた。
しかし、今、目の前でほほ笑んだそのやわらかい表情はまぎれもなく蘭世のもので
それが、また俊の施行を惑わせる。
「…え、江藤なのか…?」
本当に蘭世であるのなら、逆に今のこの状況は想像をはるかに超えている。
どちらかというとすぐ照れて真っ赤になってしまうような女だ。
それが…こんな時間に…こんな恰好で…
いったい、どうしたというんだ…??
しかし、蘭世がその微笑を見せたことで俊の中でも少しゆとりができた。
硬直していた体がふっとほどける。少し声も出せそうだ。
「な・・・んで・・・ここ・・・に・・・?」
聞きたいことは山ほどあったがそれが精いっぱいだった。
しかし、蘭世はその質問に答えることなく俊の頬に手を添えたまま俊の隣に座る。
その瞬間、俊の鼓動は再び大きく揺れる。
(誘っているとしか思えない・・・・・・)
どうすればいい・・・?コイツの目的はいったいなんだ・・・
逸る鼓動と心で大きく目覚めた本能を精いっぱいの思考能力と理性で抑え込む。
ありえないこの状況にこのまま溺れていきそうなのを俊は必死で止めていたが、
いつまでもそれが続くわけもなく、
月明かりに照らされたその蘭世の白い体が俊の理性を刻々と奪っていく。
「え、江藤・・・・・・」
俊が蘭世を呼ぶと蘭世がそっともう片方の手も俊の頬に添えて両手で俊の顔をはさんだ。
黒い大きな瞳が俊の両瞳を視線で絡み取るように覗き込む。
そしてーーーーーゆっくりと蘭世の顔が俊に近づいてくる。
夕刻に薫ったシャンプーの香りが俊の鼻を掠めた。
・・・・・・あっ・・・・・・
同じ匂い。
そして先ほど、蘭世に自分がしようとしていた行動がフラッシュバックのように
脳裏をよぎる。
その時ついに俊の箍が外れた。
蘭世の体をそのままベッドに押し倒し、自分の下に組み敷いて見下ろす。
蘭世は抵抗することもなく俊の瞳を見つめていた。
「・・・・・・どうなっても・・・・・・もう知らないからな・・・・・・」
そういって俊は蘭世の上に覆いかぶさった。
+++++
・・・・・・はずだった。
ドスンという音とともに体全身に衝撃が走る。
俊は「ん?」と目を開いた。
そこには蘭世の姿はなく、俊は布団を抱きしめたままベッドから転がり落ちていた。
「…あれ?」
俊はあたりをキョロキョロと見まわす。
カーテンの隙間から月の光だけが一本の筋になって部屋に入り込んでいた。
(夢?)
はぁーーーーー・・・・・・。
俊は大きな息とともにガタンとベッドに体をもたれかけた。
「な、なんだ・・・び、びっくりした・・・」
どこからどこまでが夢なのかよくわからないまま俊はボーっとしたままだった。
ふと机に置いたままの蘭世が忘れていった制服のスカーフと
そして一度蘭世が袖を通したスウェットを見つける。
「っくそ・・・夕方のせいだ・・・」
蘭世のあんな湯上り姿をマジマジと見てしまったから
そして思わずその姿に惹かれて口づけしそうになってしまったから・・・
どっと冷や汗が流れ出す。
(俺・・・まさか・・・あいつのこと・・・)
いや、違う!ちょっと男の本能がくすぐられただけだ。
俺に至っては硬派なはずで、女には興味がなくて・・・
「チッ・・・ああ!もう!」
そう言って俊はガバっと立ち上がり布団をひっつかんでベッドにもぐりこんだ。
今夜は・・・眠れそうにない・・・。
+++++
「あ、ま、真壁くん・・・お、おはよう!」
翌朝・・・
通学途中の昨日雨宿りをした本屋の角で俊は蘭世と出くわした。
(げっ・・・)
よりによって朝一で会ってしまうなんて。。。
昨日の動揺を引きずったまま、俊は「よ、よぉ」とどもりながら答えた。
夢のことは別としても、蘭世とキスしそうになったのは確かなことであって・・・
蘭世もそれを意識しているのか顔を赤くさせて俯いている。
「あ、あの、昨日・・・どうもありがとう。お世話かけました・・・」
「い、いや・・・」
「借りた服・・・洗って返すから」
「あ?あぁ・・・いつでもいいってお袋言ってたから」
蘭世と目が合う。
見つめ合う。
男の本能がくすぐられただけ?
・・・・・・いや・・・たぶん・・・そうじゃない・・・それだけじゃない。。。
コイツだったから・・・
昨日見てしまった夢は、それらがきっと交錯してしまったんだろう。
夢の中でふと見せた蘭世の揺らいだ頬笑みがきっと俊の中での全て。
あの妖艶なままの蘭世であったならきっと俊はいくら夢であったとしても
その手を振り払っていた。
それがなんとなくわかる。
「真壁くん?」
恐る恐る蘭世は俊の顔を覗き込む。
黙ってしまった俊に少し不安を感じたのかもしれない。
(夢のことも・・・この気持ちのことも今はまだ封印だ)
「これ・・・忘れものだ」
そういって俊はパンツのポケットから蘭世のスカーフを取り出し蘭世に渡した。
「あ!やっぱり忘れてた?ないな~って思ってたの」
そういって蘭世はよかったと笑顔になる。
俊はまた自分の鼓動が速くなるのを感じて目を背ける。
(やべぇ・・・どうすりゃいいんだ俺・・・)
「ったく・・・世話がやける女だ」
「な、なによぉ」
「行くぞ!遅刻する」
「あー!!」
俊は急に自覚してしまった感情の制御の仕方を暗中模索するしかなく、
やり場のない焦燥感をもてあましたまま
とりあえず、慌ててついてくる蘭世のカバンを取り上げてその腕をとった。
走る。。。
気持ちを悟らせる時間を与えないように、
でもなんとなく掴んだ腕は離せないまま
二人の間を吹き抜ける風を感じながら俊は黙って走った。
<END>
+おまけのあとがき+
移行のついでに第4話にしてもよかったんだけど
ちょっとカラーが違うのでこのままでいっか。
やっぱり未遂。
そして夢オチかい。
でも少年の葛藤を味わってもらえると嬉しいデスw
Aroused masic のおまけ作品です。
本編を先に読まれてからの方が楽しめます☆
その夜ーーーー。
必要以上の疲労を感じて俊は自分のベッドになだれ込むようにして横になった。
夕方味わった初めての感情に今もまだ翻弄されたままで
頭の中がモヤモヤと混沌としたままだ。
蘭世の姿が脳裏をよぎる…
(江藤…)
その時、ビュンっと強い風が吹いて俊はハッと飛び起きた。
そして何か白っぽい影のようなものが俊の目の前に浮かぶ。
な、なんだ…??
得体のしれないその正体を見極めるために俊はじっと目を凝らす。
開いたままのカーテンの間からは月光が惜しみなく部屋の中に注ぎ込んで
そのモノを鮮やかに映し出す。
それは・・・・
「誰だ…!?」
人らしきものが真っ黒いマントを背に着けたまま俊を背にしてそこに佇んでいた。
そしてそのものはゆっくりと俊に振り返る。
その拍子に漆黒の長い黒髪がマントの中から姿を現し、
俊はその存在にビクリとした。
心拍数が大きく跳ね上がる。
「え、江藤っ!?な、なんで…」
そこにいたものは、つい先ほどまで俊の脳裏から全く離れようとしなかった蘭世だった。
(なんで…ここに…)
そう俊は思ったもののあまりの驚きにそれは言葉になることはなく、ぐっと息を飲みこんだ。
心臓が口から飛び出してきそうなくらいドクンドクンと鳴り響いて呼吸すら乱れる。
そして次の瞬間に俊はそれ以上の衝撃を受け止めなければならなかった。
「なっ・・・!!!」
ゆっくりと振りかえった蘭世のそのマントの下は一糸まとわぬ姿であり
月の光に照らされたその白い肢体はまるで透き通るように鮮やかで
この世のものとも思えないほどだった。
普段では見られない無表情。
しかし、その瞳には鋭い力が込められていてその視線は
俊にまっすぐ向かっていた。
妖しくて、艶めかしいその蘭世の姿に俊は凝視せざるを得ない。
自慢の黒髪がマントと一体化されて蘭世の裸体の所々を覆っていて、
それが却ってコケティッシュだ。
驚きを通り越して俊は唖然とする。
なぜここに蘭世がいるのかもわからないし、
しかもなぜこんな姿でいるのかもわからない。
かといって、それを何故だと問いただすこともできないまま、
俊はその蘭世の姿をただ見つめることしかできなかった。
いや、
視線を離せないといったほうがしっくりくる。
月の光に照らされて青白く光るその肌に、その艶やかな黒髪に…。
ゆるやかな動きでマントをはためかせながら蘭世が俊の方に一歩ずつ近づいてくる。
その一歩ごとに俊の心臓はドクンと跳ね上がる。
しかし、それを制することも逃げることもできない。
動けないーーーーー。
蘭世は俊のいるベッドのそばまでたどり着くと、ゆっくりと俊の頬に向かって手を伸ばす。
そして俊を見つめるとニコリとほほ笑んだ。
(えっ?)
ふっと気持ちが軽くなる。
いつもの表情だ。
それまでは蘭世の姿をしていてもそれはまるで別人のように感じていた。
しかし、今、目の前でほほ笑んだそのやわらかい表情はまぎれもなく蘭世のもので
それが、また俊の施行を惑わせる。
「…え、江藤なのか…?」
本当に蘭世であるのなら、逆に今のこの状況は想像をはるかに超えている。
どちらかというとすぐ照れて真っ赤になってしまうような女だ。
それが…こんな時間に…こんな恰好で…
いったい、どうしたというんだ…??
しかし、蘭世がその微笑を見せたことで俊の中でも少しゆとりができた。
硬直していた体がふっとほどける。少し声も出せそうだ。
「な・・・んで・・・ここ・・・に・・・?」
聞きたいことは山ほどあったがそれが精いっぱいだった。
しかし、蘭世はその質問に答えることなく俊の頬に手を添えたまま俊の隣に座る。
その瞬間、俊の鼓動は再び大きく揺れる。
(誘っているとしか思えない・・・・・・)
どうすればいい・・・?コイツの目的はいったいなんだ・・・
逸る鼓動と心で大きく目覚めた本能を精いっぱいの思考能力と理性で抑え込む。
ありえないこの状況にこのまま溺れていきそうなのを俊は必死で止めていたが、
いつまでもそれが続くわけもなく、
月明かりに照らされたその蘭世の白い体が俊の理性を刻々と奪っていく。
「え、江藤・・・・・・」
俊が蘭世を呼ぶと蘭世がそっともう片方の手も俊の頬に添えて両手で俊の顔をはさんだ。
黒い大きな瞳が俊の両瞳を視線で絡み取るように覗き込む。
そしてーーーーーゆっくりと蘭世の顔が俊に近づいてくる。
夕刻に薫ったシャンプーの香りが俊の鼻を掠めた。
・・・・・・あっ・・・・・・
同じ匂い。
そして先ほど、蘭世に自分がしようとしていた行動がフラッシュバックのように
脳裏をよぎる。
その時ついに俊の箍が外れた。
蘭世の体をそのままベッドに押し倒し、自分の下に組み敷いて見下ろす。
蘭世は抵抗することもなく俊の瞳を見つめていた。
「・・・・・・どうなっても・・・・・・もう知らないからな・・・・・・」
そういって俊は蘭世の上に覆いかぶさった。
+++++
・・・・・・はずだった。
ドスンという音とともに体全身に衝撃が走る。
俊は「ん?」と目を開いた。
そこには蘭世の姿はなく、俊は布団を抱きしめたままベッドから転がり落ちていた。
「…あれ?」
俊はあたりをキョロキョロと見まわす。
カーテンの隙間から月の光だけが一本の筋になって部屋に入り込んでいた。
(夢?)
はぁーーーーー・・・・・・。
俊は大きな息とともにガタンとベッドに体をもたれかけた。
「な、なんだ・・・び、びっくりした・・・」
どこからどこまでが夢なのかよくわからないまま俊はボーっとしたままだった。
ふと机に置いたままの蘭世が忘れていった制服のスカーフと
そして一度蘭世が袖を通したスウェットを見つける。
「っくそ・・・夕方のせいだ・・・」
蘭世のあんな湯上り姿をマジマジと見てしまったから
そして思わずその姿に惹かれて口づけしそうになってしまったから・・・
どっと冷や汗が流れ出す。
(俺・・・まさか・・・あいつのこと・・・)
いや、違う!ちょっと男の本能がくすぐられただけだ。
俺に至っては硬派なはずで、女には興味がなくて・・・
「チッ・・・ああ!もう!」
そう言って俊はガバっと立ち上がり布団をひっつかんでベッドにもぐりこんだ。
今夜は・・・眠れそうにない・・・。
+++++
「あ、ま、真壁くん・・・お、おはよう!」
翌朝・・・
通学途中の昨日雨宿りをした本屋の角で俊は蘭世と出くわした。
(げっ・・・)
よりによって朝一で会ってしまうなんて。。。
昨日の動揺を引きずったまま、俊は「よ、よぉ」とどもりながら答えた。
夢のことは別としても、蘭世とキスしそうになったのは確かなことであって・・・
蘭世もそれを意識しているのか顔を赤くさせて俯いている。
「あ、あの、昨日・・・どうもありがとう。お世話かけました・・・」
「い、いや・・・」
「借りた服・・・洗って返すから」
「あ?あぁ・・・いつでもいいってお袋言ってたから」
蘭世と目が合う。
見つめ合う。
男の本能がくすぐられただけ?
・・・・・・いや・・・たぶん・・・そうじゃない・・・それだけじゃない。。。
コイツだったから・・・
昨日見てしまった夢は、それらがきっと交錯してしまったんだろう。
夢の中でふと見せた蘭世の揺らいだ頬笑みがきっと俊の中での全て。
あの妖艶なままの蘭世であったならきっと俊はいくら夢であったとしても
その手を振り払っていた。
それがなんとなくわかる。
「真壁くん?」
恐る恐る蘭世は俊の顔を覗き込む。
黙ってしまった俊に少し不安を感じたのかもしれない。
(夢のことも・・・この気持ちのことも今はまだ封印だ)
「これ・・・忘れものだ」
そういって俊はパンツのポケットから蘭世のスカーフを取り出し蘭世に渡した。
「あ!やっぱり忘れてた?ないな~って思ってたの」
そういって蘭世はよかったと笑顔になる。
俊はまた自分の鼓動が速くなるのを感じて目を背ける。
(やべぇ・・・どうすりゃいいんだ俺・・・)
「ったく・・・世話がやける女だ」
「な、なによぉ」
「行くぞ!遅刻する」
「あー!!」
俊は急に自覚してしまった感情の制御の仕方を暗中模索するしかなく、
やり場のない焦燥感をもてあましたまま
とりあえず、慌ててついてくる蘭世のカバンを取り上げてその腕をとった。
走る。。。
気持ちを悟らせる時間を与えないように、
でもなんとなく掴んだ腕は離せないまま
二人の間を吹き抜ける風を感じながら俊は黙って走った。
<END>
+おまけのあとがき+
移行のついでに第4話にしてもよかったんだけど
ちょっとカラーが違うのでこのままでいっか。
やっぱり未遂。
そして夢オチかい。
でも少年の葛藤を味わってもらえると嬉しいデスw