ときめきLOVERS
ときめきトゥナイトの二次小説を置いています。
現在本サイトより移行作業中。
Aroused magic 3
俊×蘭世 中学時代 若干脚色あり
Atoused magic 2の続きです
「冷めちまったかな…?」
「あ…入れてくれたの?うれしい☆冷めててもいいよ。今、私ホカホカだから☆」
そういってニコリとほほ笑んだ蘭世は俊の手からコップを受け取った。
蘭世がクルッと体を反転させると髪がフワリとなびく。
まただ…
シャンプーの香りが俊の周りを包み込む。
いつも自分が使うシャンプーの香りのはずなのに、なぜ、こうも違うんだろう…。
甘くて、さわやかで…そしてどこか少し艶やかで…
女に興味がないだなんてのたまっていた自分が
ただのフツウの男だったということを嫌というほど思い知らされる。
本人は特にそうしようとしているわけではない。
いや、むしろ、
蘭世の中にいるもう一人の蘭世が、まるで知らず知らずのうちに
俊に魔法をかけてしまっているような、自分が彼女の魔法に落ちてしまっているような
そんな気さえしてくる。
女が持つ、男を惑わせる魔法ーーーーーー。。。
以前ジムの先輩である小関がそんなことをニヤニヤしながら俊たちに説き伏せていた。
ーーー計算のない女が持つ魅力ほど危険なものはねえぞーーーーー
その時の俊には今一つよく理解できていなかったが、たぶん…
こういうことを言うんだろう。
目の前にして初めて気づく。
その危険を、自らが導いてきてしまったことを…。
俊に背を向けたその背中を、思わず抱きしめたくて仕方がない。
「うん、おいしい。そんなに冷めてないよ」
蘭世がそういってこちらを振り向き俊は思わずのけぞった。
(び、びっくりした…)
俊の若干ひきつる顔がわかったのか、蘭世は「どうしたの?」と尋ねた。
「…どうもしねえ」
俊はどうにかいつものポーカーフェイスに戻すと、ソファーに戻って
自分の冷めたコーヒーを飲む。
「お前、その制服もドライアー当てた方がいいんじゃねえか?」
「うーん…そうだね…あ、でもいい。家に帰ってからするし大丈夫」
制服を持ったままの蘭世はそういうとほほ笑んだ。
「…そっか…」
「…あの~」
「ん?」
「隣に…座っても…いい?」
「え”っ!」
ギクっとしたが、蘭世は先ほどから立ち尽くしたままで、よくよく考えたら
学校からずっと走りっぱなしの立ちっぱなしだったわけで…
「あ、あぁ…どうぞ」
そういって俊は少し横にずれて蘭世のスペースを確保する。
すると蘭世はエヘヘと笑ってコーヒーカップと制服をテーブルに置くと
俊の隣にちょこんと座った。
シンと沈黙する中で音楽だけが流れている。
何かどうでもいいことを話そうとするが、何も思い浮かばなくて心臓だけがうち響く。
「何か…」
「え?」
蘭世が話し出す声に反応して俊は蘭世を見る。
「何か信じられない…かな?」
そういって蘭世は恥ずかしそうにうつむく。
その姿に目をそらせない…。
「雨に打たれちゃって最悪~って思ったけど…なんか…真壁くん…
優しいな~って…///…エヘヘ、ありがとう」
蘭世はちょっと顔を赤らめながらほほ笑む。
その笑顔に心臓が鷲掴みにされたようにギュッと縮む。
「洗濯しているっていってたけど、この服、真壁くんの匂いがする気がするよ」
そういって蘭世は自分の体を愛おしそうに抱きしめる。
俊はまるで自分がそうされているような錯覚を覚えて…
…それは…お前…反則だろ!!!
ダ・・・メ・・・だ・・・・・・
俺はもうすっかりコイツの放つ魔法にはまってしまった・・・
せめてBGMをテレビにでもしておけば・・・もっと現実のままいられたかもしれないのに
運悪く?バラード・・・
気がつけば蘭世の頬に俊は手を差しのばしていた。
魔法にかかっているのならいっそもうそれでいい。
俺はもう・・・
ドクン・・・ドクン・・・
ヤバイくらいに鼓動が鳴り響く。
蘭世のその大きな瞳を見つめるとユラユラ揺れていて、
吸い込まれるように俊はゆっくりと蘭世の顔に近づけていった。
二人の瞳がゆっくり閉じていく。
そしてその瞬間ーーーーーーーーーーー・・・・・
ピンポーンとインターホンの透き通った音が二人の間を突き抜ける。
二人はお互いの鼻頭がついた状態で同時に目を見開く。
「ただいまーー!俊、ごめーん。遅くなっちゃって・・・あら?」
トタパタと廊下を歩く音が近づいてドアから華枝の顔がチラリとのぞいた。
蘭世はその瞬間にスタっと立ちあがり
「ここここ、こんにちわ、お邪魔してます」と頭を下げた。
「あら~江藤さんじゃない。こんにちわ」
「あ、あの!帰り道、すごい雨に当たっちゃって、
ま、真壁くんがそれじゃ帰れないだろうからって、ふ、服を貸してくださって・・・」
あたふたと答える蘭世の横で俊はソファーの腕置きに体を倒れこませて、
額を抑えながら大きな息で呼吸を整えている。
「あら、そうなの。へ~え、俊もいいとこあるじゃない?」
そういって華枝は何か含ませたような笑みで俊を見た。
「でも、それ俊の服でしょ?大きすぎるわよねぇ。私の服を貸してあげるわ」
「い、いえ、そんな」
「お、お袋がもう帰ってると思って連れてきたんだよ!そしたらいねえし、
俺の貸すしかねえだろ!」
まだ顔の赤みがとれない俊が怒鳴る。
「はいはい。ごめんなさいね。さあ江藤さん、こちらどうぞ☆」
そういって華枝は蘭世を奥の方に引っ張っていった。
+++++
蘭世は華枝のブラウスとスカートを借りて、華枝が送ってあげなさいなと俊に言うのも
丁重に止めて、お礼と共に帰って行った。
蘭世が出ていくと俊は思わず「はぁーーー」と大きく息を吐きだした。
安堵した気持ちと、どこか残念に思う気持ちと・・・
複雑に入り乱れた感情が心の中を交錯する。
あれは夢をみていたか、もしくは本当に魔法にかかっていただけなのか
現実に引き戻されて、妙なギャップに俊は困惑する。
そしてもし母親があのとき帰ってきていなかったら…と思ったら
俊はぶるっと身震いした。
……キス……
だけで終わらせることができたかどうかさえも…自信がない。
そして、蘭世がドアを出ていく瞬間にチラリと合わさったあの瞳が頭から離れない。
二人だけの秘密を共有し合ったことを確認するようなあの瞳に
俊は今もなお心を持って行かれたままだった。
「しゅーん?」
自分を呼ぶ華枝の声に俊はハッと我に返った。
「ごめんね?母さん、お邪魔しちゃったかしら?
華枝がニコニコしながらからかう。
「バ…んなんじゃねえよ!」
「フフ…だってまさか江藤さんがいるなんて思わないしー」
「だから!違うって!」
「でも、いいこと?ちゃんと責任取れるような行動しなさいよ?」
「あ?ああ…わかってる…っておい!違うって言ってんだろ!!!」
息子をからかう母と
そして母には知られたくない心の感情を必死で隠そうとする息子の小競り合いは
当人抜きでしばらくの間、続けられるのであった。
<END>
<おまけあります>
+あとがき+
kauranの得意とする未遂ver.です(笑)
アニメのEDの裸マントに関するイベントに出品した作品でしたので
ちょっと妖艶な蘭世ちゃんを出したかったわけなんですが
一応中学生の設定なので子どもらしさも残しつつ。。。
おまけのほうにはガッツリ裸マント出してますよ☆
Atoused magic 2の続きです
「冷めちまったかな…?」
「あ…入れてくれたの?うれしい☆冷めててもいいよ。今、私ホカホカだから☆」
そういってニコリとほほ笑んだ蘭世は俊の手からコップを受け取った。
蘭世がクルッと体を反転させると髪がフワリとなびく。
まただ…
シャンプーの香りが俊の周りを包み込む。
いつも自分が使うシャンプーの香りのはずなのに、なぜ、こうも違うんだろう…。
甘くて、さわやかで…そしてどこか少し艶やかで…
女に興味がないだなんてのたまっていた自分が
ただのフツウの男だったということを嫌というほど思い知らされる。
本人は特にそうしようとしているわけではない。
いや、むしろ、
蘭世の中にいるもう一人の蘭世が、まるで知らず知らずのうちに
俊に魔法をかけてしまっているような、自分が彼女の魔法に落ちてしまっているような
そんな気さえしてくる。
女が持つ、男を惑わせる魔法ーーーーーー。。。
以前ジムの先輩である小関がそんなことをニヤニヤしながら俊たちに説き伏せていた。
ーーー計算のない女が持つ魅力ほど危険なものはねえぞーーーーー
その時の俊には今一つよく理解できていなかったが、たぶん…
こういうことを言うんだろう。
目の前にして初めて気づく。
その危険を、自らが導いてきてしまったことを…。
俊に背を向けたその背中を、思わず抱きしめたくて仕方がない。
「うん、おいしい。そんなに冷めてないよ」
蘭世がそういってこちらを振り向き俊は思わずのけぞった。
(び、びっくりした…)
俊の若干ひきつる顔がわかったのか、蘭世は「どうしたの?」と尋ねた。
「…どうもしねえ」
俊はどうにかいつものポーカーフェイスに戻すと、ソファーに戻って
自分の冷めたコーヒーを飲む。
「お前、その制服もドライアー当てた方がいいんじゃねえか?」
「うーん…そうだね…あ、でもいい。家に帰ってからするし大丈夫」
制服を持ったままの蘭世はそういうとほほ笑んだ。
「…そっか…」
「…あの~」
「ん?」
「隣に…座っても…いい?」
「え”っ!」
ギクっとしたが、蘭世は先ほどから立ち尽くしたままで、よくよく考えたら
学校からずっと走りっぱなしの立ちっぱなしだったわけで…
「あ、あぁ…どうぞ」
そういって俊は少し横にずれて蘭世のスペースを確保する。
すると蘭世はエヘヘと笑ってコーヒーカップと制服をテーブルに置くと
俊の隣にちょこんと座った。
シンと沈黙する中で音楽だけが流れている。
何かどうでもいいことを話そうとするが、何も思い浮かばなくて心臓だけがうち響く。
「何か…」
「え?」
蘭世が話し出す声に反応して俊は蘭世を見る。
「何か信じられない…かな?」
そういって蘭世は恥ずかしそうにうつむく。
その姿に目をそらせない…。
「雨に打たれちゃって最悪~って思ったけど…なんか…真壁くん…
優しいな~って…///…エヘヘ、ありがとう」
蘭世はちょっと顔を赤らめながらほほ笑む。
その笑顔に心臓が鷲掴みにされたようにギュッと縮む。
「洗濯しているっていってたけど、この服、真壁くんの匂いがする気がするよ」
そういって蘭世は自分の体を愛おしそうに抱きしめる。
俊はまるで自分がそうされているような錯覚を覚えて…
…それは…お前…反則だろ!!!
ダ・・・メ・・・だ・・・・・・
俺はもうすっかりコイツの放つ魔法にはまってしまった・・・
せめてBGMをテレビにでもしておけば・・・もっと現実のままいられたかもしれないのに
運悪く?バラード・・・
気がつけば蘭世の頬に俊は手を差しのばしていた。
魔法にかかっているのならいっそもうそれでいい。
俺はもう・・・
ドクン・・・ドクン・・・
ヤバイくらいに鼓動が鳴り響く。
蘭世のその大きな瞳を見つめるとユラユラ揺れていて、
吸い込まれるように俊はゆっくりと蘭世の顔に近づけていった。
二人の瞳がゆっくり閉じていく。
そしてその瞬間ーーーーーーーーーーー・・・・・
ピンポーンとインターホンの透き通った音が二人の間を突き抜ける。
二人はお互いの鼻頭がついた状態で同時に目を見開く。
「ただいまーー!俊、ごめーん。遅くなっちゃって・・・あら?」
トタパタと廊下を歩く音が近づいてドアから華枝の顔がチラリとのぞいた。
蘭世はその瞬間にスタっと立ちあがり
「ここここ、こんにちわ、お邪魔してます」と頭を下げた。
「あら~江藤さんじゃない。こんにちわ」
「あ、あの!帰り道、すごい雨に当たっちゃって、
ま、真壁くんがそれじゃ帰れないだろうからって、ふ、服を貸してくださって・・・」
あたふたと答える蘭世の横で俊はソファーの腕置きに体を倒れこませて、
額を抑えながら大きな息で呼吸を整えている。
「あら、そうなの。へ~え、俊もいいとこあるじゃない?」
そういって華枝は何か含ませたような笑みで俊を見た。
「でも、それ俊の服でしょ?大きすぎるわよねぇ。私の服を貸してあげるわ」
「い、いえ、そんな」
「お、お袋がもう帰ってると思って連れてきたんだよ!そしたらいねえし、
俺の貸すしかねえだろ!」
まだ顔の赤みがとれない俊が怒鳴る。
「はいはい。ごめんなさいね。さあ江藤さん、こちらどうぞ☆」
そういって華枝は蘭世を奥の方に引っ張っていった。
+++++
蘭世は華枝のブラウスとスカートを借りて、華枝が送ってあげなさいなと俊に言うのも
丁重に止めて、お礼と共に帰って行った。
蘭世が出ていくと俊は思わず「はぁーーー」と大きく息を吐きだした。
安堵した気持ちと、どこか残念に思う気持ちと・・・
複雑に入り乱れた感情が心の中を交錯する。
あれは夢をみていたか、もしくは本当に魔法にかかっていただけなのか
現実に引き戻されて、妙なギャップに俊は困惑する。
そしてもし母親があのとき帰ってきていなかったら…と思ったら
俊はぶるっと身震いした。
……キス……
だけで終わらせることができたかどうかさえも…自信がない。
そして、蘭世がドアを出ていく瞬間にチラリと合わさったあの瞳が頭から離れない。
二人だけの秘密を共有し合ったことを確認するようなあの瞳に
俊は今もなお心を持って行かれたままだった。
「しゅーん?」
自分を呼ぶ華枝の声に俊はハッと我に返った。
「ごめんね?母さん、お邪魔しちゃったかしら?
華枝がニコニコしながらからかう。
「バ…んなんじゃねえよ!」
「フフ…だってまさか江藤さんがいるなんて思わないしー」
「だから!違うって!」
「でも、いいこと?ちゃんと責任取れるような行動しなさいよ?」
「あ?ああ…わかってる…っておい!違うって言ってんだろ!!!」
息子をからかう母と
そして母には知られたくない心の感情を必死で隠そうとする息子の小競り合いは
当人抜きでしばらくの間、続けられるのであった。
<END>
<おまけあります>
+あとがき+
kauranの得意とする未遂ver.です(笑)
アニメのEDの裸マントに関するイベントに出品した作品でしたので
ちょっと妖艶な蘭世ちゃんを出したかったわけなんですが
一応中学生の設定なので子どもらしさも残しつつ。。。
おまけのほうにはガッツリ裸マント出してますよ☆
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Aroused magic 2
俊×蘭世 中学時代 若干脚色あり
Aroused magic 1の続きです。
「あー、ひどい目にあったぜ…」
バタバタとマンションに駆けこんだ俊は濡れた頭をブルブルと振った後、
ポケットから鍵を取り出すとドアを開けた。
「おーい、お袋ーーー…あれ?」
俊がのぞいた部屋はまだ真っ暗で、人のいる気配が感じられない。
「まだか?…とりあえず入れよ」
そういって蘭世を玄関に入れる。
「お、お邪魔します」
俊は思いっきり水分の含んだ靴と靴下を脱ぎ捨てると、リビングの方に入って行った。
母の華枝はまだ戻っていないらしくシンと冷えた空気だけがそこにあるだけだった。
「まいったな…」
かといって、玄関先ですぶぬれの蘭世を放り出すわけにもいかなくて
とりあえず、脱衣所においてあるタオルを二枚取り出すと
一枚で自分の頭を拭きながら玄関に戻った。
「お袋、まだ帰ってないらしい。とりあえずタオル」
「あ、ありがとう!」
大きめのタオルで多少の水分はとれたが、少し乾きだした肌は体温をどんどん奪われ
蘭世はもう1回クシュンとくしゃみをした。
このままだと風邪を引くのも時間の問題だ。
「とりあえず上がれよ。で、シャワーだけでも浴びた方がいいんじゃねえの?」
「え…///で、でも…」
「風邪ひくぞ」
暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ肌寒い。しかもこんな状態のままでは…
「別に取って食いやしねえよ」
俊の発した言葉に蘭世はボンッと顔を赤らめる。
「ああ当たり前ですーーーー///」
当たり前だ!…んなことするかっての!!
半ば自分に言い聞かせるように自分の中で俊はつぶやく。
「いいから上がれって。そこも寒いだろ」
「は、ハイ…お邪魔します…」
蘭世もずぶ濡れになった靴下を脱いだ。
裸足になった素足が妙に艶めかしい。
ゴホンと俊は咳払いをして一足先に奥に向かう。
そして新しいバスタオルと、あと自分の部屋からスウェットの上下を出してきた。
そしてリビングのテーブルのところで立ち往生している蘭世を見ると
ん、といってそれを差し出した。
「お袋がいねえから、とりあえず俺の。洗濯してあるから大丈夫だぞ」
ちょっと照れながらいう俊に蘭世は思わずプッと笑う。
「な、なんだよ」
「ありがとう…じゃあお言葉に甘えて…お借りします…」
「お、おぅ」
+++++
「その辺に置いてあるもの、適当に使っていいから」
そういうと俊は蘭世を浴室に残したままリビングに戻った。
「はぁーーーーーー」
急にドッと疲れが俊の肩に落ちてきた。
張り詰めていたものが一気に解けた感じ。
…ったく…なんでこんなことに…
とりあえず俊も濡れた制服をシャツとジーンズに着替えコーヒーを入れる。
冷えた体にゆっくりとコーヒーが注ぎ込まれ、いくらかほっと息をつけた。
ドライアーで濡れた髪を乾かしてソファーに腰を沈めると
そのまま眠ってしまいそうになる。
しかし、ガチャリとドアが開いた音で、またビクっと俊は身を起こした。
蘭世がドアからこちらを覗いている。
「あの、シャワーどうもありがとう」
「い、いや…あったまれたか?」
「うん!ついでと言ってはなんですが…ドライアーお借りできますか…??」
「あ?あ、あぁ…これ」
そういってソファーに置きっぱなしにしてあったドライアーを蘭世に渡した。
その一瞬シャンプーと石鹸の香りが俊の鼻を掠める。
ドキンとまた俊の胸が鼓動を打つ。
洗面所に戻った蘭世を見送ると、ようやく俊は身動きが取れた。
鼓動を抑えようとして慌てて蘭世用のコップを食器棚から取り出してコーヒーを注ぐ。
そして、そのままグラスも手にとって勢いよく蛇口から水を注ぐと一気に飲み干した。
「落ち着け!俺!」
調子が狂う。
どうしても今日のアイツは俺の調子を狂わせる。
なんなんだ…いったい…
気を紛らわせるために音楽をかけてラックに置いてあった雑誌を手に取り
俊はもう一度ソファーに座った。
パラパラとめくるも内容は頭に入ってこない。
そのまま背もたれに頭を預けて天井を何気に眺める。
そして大きく深呼吸。
そうこうしているとドライアーの音が止んだ。
その止んだ後のシンとした静けささえも、今の俊にとっては刺激的で
そこに蘭世がいるということを嫌でも確信せざるを得なく、
そうこうしているとガチャリとまたドアが開いた。
「真壁くん、どうもありがとう」
濡れた髪も乾いてすっかりいつものように戻ったように見えた蘭世だったが
どうしても俊にとっては細かい部分が気になる。
少し上気して赤く染まった頬や、何も履いていない素足や、
いつもは自分が着ている服に身を包まれているその姿までもが
俊の心を煽ってしまう。
平常心…平常心…
そう言い聞かせて俊は蘭世に用意したコーヒーカップを手に取った。
<つづく>
Aroused magic 1の続きです。
「あー、ひどい目にあったぜ…」
バタバタとマンションに駆けこんだ俊は濡れた頭をブルブルと振った後、
ポケットから鍵を取り出すとドアを開けた。
「おーい、お袋ーーー…あれ?」
俊がのぞいた部屋はまだ真っ暗で、人のいる気配が感じられない。
「まだか?…とりあえず入れよ」
そういって蘭世を玄関に入れる。
「お、お邪魔します」
俊は思いっきり水分の含んだ靴と靴下を脱ぎ捨てると、リビングの方に入って行った。
母の華枝はまだ戻っていないらしくシンと冷えた空気だけがそこにあるだけだった。
「まいったな…」
かといって、玄関先ですぶぬれの蘭世を放り出すわけにもいかなくて
とりあえず、脱衣所においてあるタオルを二枚取り出すと
一枚で自分の頭を拭きながら玄関に戻った。
「お袋、まだ帰ってないらしい。とりあえずタオル」
「あ、ありがとう!」
大きめのタオルで多少の水分はとれたが、少し乾きだした肌は体温をどんどん奪われ
蘭世はもう1回クシュンとくしゃみをした。
このままだと風邪を引くのも時間の問題だ。
「とりあえず上がれよ。で、シャワーだけでも浴びた方がいいんじゃねえの?」
「え…///で、でも…」
「風邪ひくぞ」
暖かくなってきたとはいえ、夜はまだ肌寒い。しかもこんな状態のままでは…
「別に取って食いやしねえよ」
俊の発した言葉に蘭世はボンッと顔を赤らめる。
「ああ当たり前ですーーーー///」
当たり前だ!…んなことするかっての!!
半ば自分に言い聞かせるように自分の中で俊はつぶやく。
「いいから上がれって。そこも寒いだろ」
「は、ハイ…お邪魔します…」
蘭世もずぶ濡れになった靴下を脱いだ。
裸足になった素足が妙に艶めかしい。
ゴホンと俊は咳払いをして一足先に奥に向かう。
そして新しいバスタオルと、あと自分の部屋からスウェットの上下を出してきた。
そしてリビングのテーブルのところで立ち往生している蘭世を見ると
ん、といってそれを差し出した。
「お袋がいねえから、とりあえず俺の。洗濯してあるから大丈夫だぞ」
ちょっと照れながらいう俊に蘭世は思わずプッと笑う。
「な、なんだよ」
「ありがとう…じゃあお言葉に甘えて…お借りします…」
「お、おぅ」
+++++
「その辺に置いてあるもの、適当に使っていいから」
そういうと俊は蘭世を浴室に残したままリビングに戻った。
「はぁーーーーーー」
急にドッと疲れが俊の肩に落ちてきた。
張り詰めていたものが一気に解けた感じ。
…ったく…なんでこんなことに…
とりあえず俊も濡れた制服をシャツとジーンズに着替えコーヒーを入れる。
冷えた体にゆっくりとコーヒーが注ぎ込まれ、いくらかほっと息をつけた。
ドライアーで濡れた髪を乾かしてソファーに腰を沈めると
そのまま眠ってしまいそうになる。
しかし、ガチャリとドアが開いた音で、またビクっと俊は身を起こした。
蘭世がドアからこちらを覗いている。
「あの、シャワーどうもありがとう」
「い、いや…あったまれたか?」
「うん!ついでと言ってはなんですが…ドライアーお借りできますか…??」
「あ?あ、あぁ…これ」
そういってソファーに置きっぱなしにしてあったドライアーを蘭世に渡した。
その一瞬シャンプーと石鹸の香りが俊の鼻を掠める。
ドキンとまた俊の胸が鼓動を打つ。
洗面所に戻った蘭世を見送ると、ようやく俊は身動きが取れた。
鼓動を抑えようとして慌てて蘭世用のコップを食器棚から取り出してコーヒーを注ぐ。
そして、そのままグラスも手にとって勢いよく蛇口から水を注ぐと一気に飲み干した。
「落ち着け!俺!」
調子が狂う。
どうしても今日のアイツは俺の調子を狂わせる。
なんなんだ…いったい…
気を紛らわせるために音楽をかけてラックに置いてあった雑誌を手に取り
俊はもう一度ソファーに座った。
パラパラとめくるも内容は頭に入ってこない。
そのまま背もたれに頭を預けて天井を何気に眺める。
そして大きく深呼吸。
そうこうしているとドライアーの音が止んだ。
その止んだ後のシンとした静けささえも、今の俊にとっては刺激的で
そこに蘭世がいるということを嫌でも確信せざるを得なく、
そうこうしているとガチャリとまたドアが開いた。
「真壁くん、どうもありがとう」
濡れた髪も乾いてすっかりいつものように戻ったように見えた蘭世だったが
どうしても俊にとっては細かい部分が気になる。
少し上気して赤く染まった頬や、何も履いていない素足や、
いつもは自分が着ている服に身を包まれているその姿までもが
俊の心を煽ってしまう。
平常心…平常心…
そう言い聞かせて俊は蘭世に用意したコーヒーカップを手に取った。
<つづく>
Aroused magic 1
俊×蘭世 中学時代 若干脚色あり
「あ…っ」
「降り出しやがったか…走るぞ!」
つい数十分前まではそんな気配なんて全くなかったのに
傘を準備する間も与えることなく、突然激しい雨が俊と蘭世を襲った。
連日に及ぶ小テストにことごとく打ちのめされた二人を待っていたものは、
精神的消耗の激しい補習だった。
指名を受けたのは俊と蘭世の二人だけ。
最初はにやけ顔だった蘭世も適当にすりゃいいと侮っていた俊も
教師一人に生徒二人という補習スタイルの前では、気を抜く隙もなかったし、
そんな中で苦手なお勉強に真剣に取り組まざるを得ない状況にほとほと疲れ果て、
夕刻、陽も沈みそうな時間になってようやく解放された二人は
ダラダラと帰途についていたそんな矢先のことだった。
「補習の上にこんな雨なんて、全くついてねえぜ!」
「ホントーー!!せっかく真壁くんとの補習だったのにぃ」
「…バカっ…まだんなこと言ってやがる」
スコールのような雨は瞬く間に地面をも水浸しにし、走る二人の足元も
容赦なくビシャビシャとはね上げさせる。
少し戻ればコンビニもあったのだが、雨足がここまでひどくなるとも思わずに
走り出してしまった二人は、傘の調達もままならないまま
ひとまず本屋の軒下に身を預けた。
二人してカバンを頭上に掲げて走ったものの、それで防げるほどの雨量ではなく
髪を結んでいなかった蘭世の長い髪も、今は十分に水分を含みきって
雫が滴り落ちていた。
「あ~あ…びっしょびしょ…」
俊は払いながらそうつぶやく蘭世の姿を確かめた。
(…こいつ…ヤバくないか…?)
全身びしょぬれで、勿論髪もそうだが、薄地の制服もすっかり濡れて
下着もすけてしまっている。
自分だってシャツはベッタリと肌に張り付いているのだから
同じように濡れた蘭世もそれは当然の姿なのだが、
俊は眼のやり場に困りながらもどうすべきか考えを巡らせた。
「やみそうにねえなぁ…」
黒く低く立ち込めた鉛色の空を俊は睨む。
すると隣でクシュンと小さく蘭世がくしゃみをした。
「寒いか?」
といっても羽織らせるものもないのだが。
「あ…ううん。大丈夫」
そういってニコリとほほ笑む蘭世の額から頬にかけて雫がまた一粒零れ落ちた。
なぜか…
ドキリとした。
その流れ落ちた水滴がすごく綺麗に見えて、目を奪われる。
自分の肌にも流れ落ちている雫が一瞬、冷や汗に変わった気がした。
(何考えてんだ…俺は…///)
俊は自分の持っていたハンカチで少し乱暴に蘭世のその雫を拭いてやる。
「…あっ///…ありがとう…」
蘭世は少し恥じらいながらそう言った。
ありがとう…だなんて
それは蘭世のためにした行為というより、もしろ自分のための行動だった。
蘭世のそんな姿を見せられる自分に、自信が持てなかっただけ。
俊の中の血がドクンドクンと騒ぎ出すのを防ぎたかっただけ。
このヤロウ…
そんな無邪気に俺を見るなよ…。
俊はいたたまれなくなって目を背ける。
この場から、この雨の中に逃げ出したいくらい。。。
だが、こんな状態の蘭世をこのまま置いていくわけにもいかなくて
俊ははぁと息をついた。
この本屋の角で、二人は違う方向に向かって帰る。
俊の住むマンションはここからなら3分もかからないくらいだ。
しかし、蘭世の家は全速力で走っても5分以上はかかるだろうし、
この雨の中、そこまで体力が持つかどうかも怪しい。
ましてや、この姿を街中にさらさせることにも俊の中では抵抗があった。
蘭世のこんな姿を他の誰の目にも触れさせたくない。。。
なんなんだ…この感じ…。
女に興味…なんてなかったはずなのに…。
「チッ」
自分の中でもてあます感情に俊は少しイラついて舌打ちした。
「お前…とにかく…俺んちまで走れるか?あと3分くらい」
「えっ?」
蘭世はきょとんとした顔で俊を眺める。
「お前んち…まだこの先距離あるだろ。傘も貸してやれるし、
どのみちその格好ヤバイだろ…」
「あ…」
蘭世はようやく自分の姿がどういう状態かということに気付いたかのように
全身を見渡す。
そして顔を赤らめるとカバンを胸の前で抱え込んだ。
「はぁ…これだからほっとけねえんだよ」
俊は一人ごちる。
「えっ?」
蘭世はパッと顔をあげて俊を見たが、俊はそれに気づかないフリをしたまま言った。
「もうお袋も帰ってると思うし、お袋の服でよければ貸してやれるよ。ほら行くぞ」
「う、うん」
そういって走り出した俊に蘭世も慌ててついていった。
<つづく>
「あ…っ」
「降り出しやがったか…走るぞ!」
つい数十分前まではそんな気配なんて全くなかったのに
傘を準備する間も与えることなく、突然激しい雨が俊と蘭世を襲った。
連日に及ぶ小テストにことごとく打ちのめされた二人を待っていたものは、
精神的消耗の激しい補習だった。
指名を受けたのは俊と蘭世の二人だけ。
最初はにやけ顔だった蘭世も適当にすりゃいいと侮っていた俊も
教師一人に生徒二人という補習スタイルの前では、気を抜く隙もなかったし、
そんな中で苦手なお勉強に真剣に取り組まざるを得ない状況にほとほと疲れ果て、
夕刻、陽も沈みそうな時間になってようやく解放された二人は
ダラダラと帰途についていたそんな矢先のことだった。
「補習の上にこんな雨なんて、全くついてねえぜ!」
「ホントーー!!せっかく真壁くんとの補習だったのにぃ」
「…バカっ…まだんなこと言ってやがる」
スコールのような雨は瞬く間に地面をも水浸しにし、走る二人の足元も
容赦なくビシャビシャとはね上げさせる。
少し戻ればコンビニもあったのだが、雨足がここまでひどくなるとも思わずに
走り出してしまった二人は、傘の調達もままならないまま
ひとまず本屋の軒下に身を預けた。
二人してカバンを頭上に掲げて走ったものの、それで防げるほどの雨量ではなく
髪を結んでいなかった蘭世の長い髪も、今は十分に水分を含みきって
雫が滴り落ちていた。
「あ~あ…びっしょびしょ…」
俊は払いながらそうつぶやく蘭世の姿を確かめた。
(…こいつ…ヤバくないか…?)
全身びしょぬれで、勿論髪もそうだが、薄地の制服もすっかり濡れて
下着もすけてしまっている。
自分だってシャツはベッタリと肌に張り付いているのだから
同じように濡れた蘭世もそれは当然の姿なのだが、
俊は眼のやり場に困りながらもどうすべきか考えを巡らせた。
「やみそうにねえなぁ…」
黒く低く立ち込めた鉛色の空を俊は睨む。
すると隣でクシュンと小さく蘭世がくしゃみをした。
「寒いか?」
といっても羽織らせるものもないのだが。
「あ…ううん。大丈夫」
そういってニコリとほほ笑む蘭世の額から頬にかけて雫がまた一粒零れ落ちた。
なぜか…
ドキリとした。
その流れ落ちた水滴がすごく綺麗に見えて、目を奪われる。
自分の肌にも流れ落ちている雫が一瞬、冷や汗に変わった気がした。
(何考えてんだ…俺は…///)
俊は自分の持っていたハンカチで少し乱暴に蘭世のその雫を拭いてやる。
「…あっ///…ありがとう…」
蘭世は少し恥じらいながらそう言った。
ありがとう…だなんて
それは蘭世のためにした行為というより、もしろ自分のための行動だった。
蘭世のそんな姿を見せられる自分に、自信が持てなかっただけ。
俊の中の血がドクンドクンと騒ぎ出すのを防ぎたかっただけ。
このヤロウ…
そんな無邪気に俺を見るなよ…。
俊はいたたまれなくなって目を背ける。
この場から、この雨の中に逃げ出したいくらい。。。
だが、こんな状態の蘭世をこのまま置いていくわけにもいかなくて
俊ははぁと息をついた。
この本屋の角で、二人は違う方向に向かって帰る。
俊の住むマンションはここからなら3分もかからないくらいだ。
しかし、蘭世の家は全速力で走っても5分以上はかかるだろうし、
この雨の中、そこまで体力が持つかどうかも怪しい。
ましてや、この姿を街中にさらさせることにも俊の中では抵抗があった。
蘭世のこんな姿を他の誰の目にも触れさせたくない。。。
なんなんだ…この感じ…。
女に興味…なんてなかったはずなのに…。
「チッ」
自分の中でもてあます感情に俊は少しイラついて舌打ちした。
「お前…とにかく…俺んちまで走れるか?あと3分くらい」
「えっ?」
蘭世はきょとんとした顔で俊を眺める。
「お前んち…まだこの先距離あるだろ。傘も貸してやれるし、
どのみちその格好ヤバイだろ…」
「あ…」
蘭世はようやく自分の姿がどういう状態かということに気付いたかのように
全身を見渡す。
そして顔を赤らめるとカバンを胸の前で抱え込んだ。
「はぁ…これだからほっとけねえんだよ」
俊は一人ごちる。
「えっ?」
蘭世はパッと顔をあげて俊を見たが、俊はそれに気づかないフリをしたまま言った。
「もうお袋も帰ってると思うし、お袋の服でよければ貸してやれるよ。ほら行くぞ」
「う、うん」
そういって走り出した俊に蘭世も慌ててついていった。
<つづく>
お手伝いのご褒美は
俊×蘭世 中学時代
久しぶりに新作デス。
「真壁くん、待って~」
下校中、少し離れた後ろから聞こえてくる声に俊は振り返った。
思い当った声の主は視覚で確認したその姿と相違なかった。
江藤蘭世だ。
どうやら学校からずっと走ってきたようでぜいぜい肩で息をしている。
勢いよく駆けてくる蘭世に俊はあきれ顔で答えた。
「そんな息切らして何の用だよ」
「だって一緒に帰りたかったんだもん」
「は?」
こいつは臆面もなくそういうことを言ってのける。こちらが面食らうくらいに…。
だが、転校早々からこの調子だったコイツには最近ではもう慣れっこだ。
というか、こいつだけは最初からどうも違った。
それまでは女なんて面倒なだけだと思っていたのに、
この女は驚くほどすんなりと俊の心に入ってきた。
こんな風に追いかけられても自然と受け入れてしまう。
まるでほんわり暖かい風がすっと胸を通って行くようだ。
それでも元々の自分の性格がそう簡単に崩れるわけでもなく、
というより崩さないようにすると、つい口から出るのは皮肉ばかり。
しかし、彼女の方もそれにはずいぶん慣れてしまったようで軽くかわしていってしまう。
そのやりとりになんとなく心地よさすら感じていることに
俊は気づかないフリをしていた。
気づいてしまうことが怖くて。。。
今日もそんな心の葛藤をポーカーフェイスで隠していつもの調子で返事をした。
「なんでお前と一緒に帰らなきゃならねえんだ」
「いいじゃなーい。一人で帰るより二人で帰る方が楽しいでしょ?」
「だったら他のヤツでもいいじゃねえか」
「もう!真壁くんったらツレナイんだから!」
「・・・・・」
そう言いながら足は進んでいるわけだから、結局こんな風に一緒に
帰っていることになってしまう。
蘭世が隣で並んで歩くことに今では何の違和感も感じない。
むしろだんだん当たり前になっていることに安堵感と焦燥感が交錯していた。
+++++
二人でたわいもない会話をしながら公園の前を通りかかった時、
一人の婦人が青ざめた顔で公園から出てきた。
俊が何か言おうとする前に蘭世が一足早く彼女に問いかけていた。
「あの…どうかされました?」
「あ…すみません…茶色のトイプードルが走ってきませんでしたか?」
「トイプードル?…いいえ…」
「あ…そう…ごめんなさい。ありがとう」
「迷子ですか?」
「ええ…ちょっとリードが外れてしまったら、駆けだしていってしまって…」
「まぁ…」
「まだ子犬なものでしつけもできてないし、外にも慣れてなくて…」
「それは心配ですね…」
蘭世は親身になってその話を聞いている。
俊は(またおせっかいが…)と思いながらもその場を離れることができずにいた。
でもこの調子だとたぶん…
「私、探すの手伝います!」
やっぱり…
そうくると思ったぜ…。
こいつのこういうところはもう把握済みだ。
そして次に言う言葉も…。
「あ…真壁くん、誘っといてごめんね。先に帰って。私ワンちゃん探してくる。」
俊は半分あきれながら、はぁと息を吐いた。
「あのなぁ…そんな話聞いてそれですんなりハイじゃあなんて鬼みたいなこと言えるか」
「え…一緒に探してくれるの?」
「しょうがねえだろ」
「ありがとー!!」
「あ、ありがとうございます」
ったく…
お前の犬なのか!って突っ込みたくなるほど喜んじゃって…。
しかし、蘭世のこういうところに俊は弱さを感じずにはいられなかった。
そんなこんなで蘭世と俊は行方不明の犬っころを探す羽目になったのである。
+++++
「いたか?」
「ううん…」
手分けして探し始めて小一時間ほどたっていた。
この近辺はしらみつぶしに探してみたが見つけることもできずに、
収穫なしのまま最初の公園に戻るとちょうど蘭世も戻ってきたところだった。
「いないね…どこいっちゃったんだろ…」
八方ふさがりの状態で立ちつくしているとそこに当の婦人も戻ってきた。
「すみません…お手を煩わせてしまって…」
「いえ。。。そんなことはいいんですが…見つかりませんね…」
蘭世はシュンとして俯く。
「このままでは申し訳ないからもうお二人ともお帰りになって。
後は私が探しますから」
「でも…まだ私大丈夫です。それに心配だし。。。」
隣で蘭世がそういうのを聞いて俊もおなじように思う。
このままだとなんとなく気分も晴れない。
俊はどうしたもんだろうかとぐるりと辺りを見渡した。
すると公園の固定遊具の中にちょこっと動く茶色の物体を見つけた。
「あ…あれ…」
「え?」
俊の言葉でいっせいに二人が俊の視線の先をたどる。
「あ…ラル!!」
婦人が悲鳴に近い声でそう叫ぶとラルと呼ばれたその茶色い物体は姿を現し、
一目散に駆けてきた。
そのまま婦人にとびつくのと同時に彼女は子犬を両手で抱きあげた。
「この子ですか?」
「はい!…本当にどうもありがとうございました」
「よかったぁ」
「こんなとこにいやがったのか…」
「灯台下暗しだね」
「ああ…まったくだ…ったく人騒がせなヤツだな」
「ホント、もう勝手にどっか行っちゃだめだよ?」
でもかわい~☆と蘭世はその子犬と戯れていた。
心から嬉しそうに笑う蘭世はキラキラしていた。
子犬が見つかったことはこの女性にとってはもちろんよかったことだが、
蘭世もこんなに楽しそうに子犬と遊ぶ姿を見て俊は安堵し、ふっと笑顔をこぼした。
そしてその姿になんとなく見惚れている自分に気づいてゴホンと一つ咳払いした。
+++++
「ホントにどうもありがとうございました」
子犬との再会を果たした後、婦人は深々とこちらに頭を下げた。
「いいえ~。私たち結局何もしてないですし…」
「そんなことないです。お二人がいなければ私もあきらめて帰っていたかもしれません。
ホントに助けられました。ありがとう」
俊と蘭世は顔を見合わせるとニコリとほほ笑みあった。
人にお礼を言われるなんて久しぶりだな。。。
俊はふとそう思った。
少し照れくささもあるけど、これはこれでなかなかいいものだ。
そして横で笑う蘭世に対しても…。
「あ、そうだ、今日のお礼にこれ…はいどうぞ」
「えっ…」
そういって婦人は鞄から紙切れを二枚取り出して俊の胸に押し付けた。
思いかけずのことで俊はチケットが胸からはらりと落ちそうになるのを
慌てて手のひらで押さえる。
「ちょ、ちょっと…これ…」
「今度の日曜までの映画のチケットなんですよ。
もらい物なんだけど私も用があって行けなくて…ちょうどよかったわ」
そういって彼女はにっこりほほ笑んだ。
「え…でも…」
「助けて下さったお礼よ。そちらの彼女さんとお二人でどうぞ」
「か、彼女!?」
蘭世は髪をピンと逆立たせた猫のように顔を真っ赤にさせる。
「いや…俺たちは別に…」
俊も突然の言葉に動揺しながらしどろもどろに否定するが、彼女はホホホと笑うだけだった。
「じゃあね。ありがとう」
そういって婦人は二人にひらひらと手を振ると頭を下げながら去って行った。
+++++
公園に俊と蘭世が取り残される。
俊は手のひらで押さえていた胸のチケットをつかみしばし思案してから
チラリと蘭世の様子を伺った。
そこにはキラキラと瞬かせた瞳がこちらを見ている。
彼女…か…。
いや!そんなんじゃねえし!
そう心で否定するも俊の胸の動悸はなかなか治まらなかった。
そんな眼で見られたら…
行かないなんて言えねえじゃねえか…
でもこういう風に言い聞かせている自分は
…なんてズルイ…。
俊はふぅと一息つくと一枚を左手にとって蘭世に差し出す。
「えっ…」
「まぁ…お前も一緒に探したわけだし…これをもらう権利は…ある」
チケットをじっと見つめていた蘭世は何かを訴えかけるような眼で俊を見上げた。
「そ、そちらのチケットは…」
「は?…んだよ。ことちは俺んだろうが!それとも何か?
2枚とも持ってって別のヤツとでもいくつもりかよ」
「そ、そんなこと…///」
「だったら…ほら…」
そう言って俊は蘭世の手を取りチケットを握らせた。
「一緒に…行ってくれるの?」
「二人にってくれたもんだし…まあそれに日曜はたまたま空いてたりするけど…」
自分でも思う…なんてあまのじゃくな言い方…。
ホントは…ちょっと…心が騒いでいる自分がいるくせに…
「お前が予定あるならそれは俺が頂く」
そういって蘭世の手からチケットを奪おうとすると
蘭世は普段からは想像がつかないほどの速さで
チケットを握った手を胸にしっかりと組んだまま身を翻した。
「予定なんてぜんっぜんない!すっごく暇」
ドキ…
どの瞬間、俊の胸の鼓動が大きく響いた。
蘭世の心底嬉しそうなその表情に思わず惹きつけられ、目が離せない。
そんな動揺を悟られないように俊は慌てて蘭世から目を逸らした。
「…じゃ、じゃあ日曜日、13時駅前だ。いいな」
「うん☆」
こちらの気持ちを察することもなく蘭世は満面の笑みでうなづいた。
察しられても困るけど…
でもその満面の笑みを見ているとほっと胸が温かくなってくる。
俊はなんとなく引き寄せたくなる衝動をため息で紛らわせた。
しかし、そのあと、どんな顔をすればいいかわからなかった。
どうしても顔の筋肉がゆるんでしまう。
表情のコントロールができずにさらに焦る。
ここはもう退散するしかない。
まだ明るいし、送っておくほどでもないだろう。
「んじゃ」
どういって背中越しにヒラヒラと手を振る。
言葉にするにはまだよくわからない感情を俊はもてあましながら
とにかく今はその場を離れてしまいたかった。
しかし日曜にもっとおおきな動揺にさらされることに
そのとき、俊はまだ気づいていないのだった。
<END>
+あとがき+
突然ですが移行途中に新作ぶっこみました(笑)
以前に書きとめていたものなので書いたのはだいぶ前なんですが…。
まだまだ中学時代なので糖度は低めですね。
それと、ラスト、次回に続きそうな終わり方をしてますが
特に何も考えてません…オイ。
そのうち機会があれば^^;
久しぶりに新作デス。
「真壁くん、待って~」
下校中、少し離れた後ろから聞こえてくる声に俊は振り返った。
思い当った声の主は視覚で確認したその姿と相違なかった。
江藤蘭世だ。
どうやら学校からずっと走ってきたようでぜいぜい肩で息をしている。
勢いよく駆けてくる蘭世に俊はあきれ顔で答えた。
「そんな息切らして何の用だよ」
「だって一緒に帰りたかったんだもん」
「は?」
こいつは臆面もなくそういうことを言ってのける。こちらが面食らうくらいに…。
だが、転校早々からこの調子だったコイツには最近ではもう慣れっこだ。
というか、こいつだけは最初からどうも違った。
それまでは女なんて面倒なだけだと思っていたのに、
この女は驚くほどすんなりと俊の心に入ってきた。
こんな風に追いかけられても自然と受け入れてしまう。
まるでほんわり暖かい風がすっと胸を通って行くようだ。
それでも元々の自分の性格がそう簡単に崩れるわけでもなく、
というより崩さないようにすると、つい口から出るのは皮肉ばかり。
しかし、彼女の方もそれにはずいぶん慣れてしまったようで軽くかわしていってしまう。
そのやりとりになんとなく心地よさすら感じていることに
俊は気づかないフリをしていた。
気づいてしまうことが怖くて。。。
今日もそんな心の葛藤をポーカーフェイスで隠していつもの調子で返事をした。
「なんでお前と一緒に帰らなきゃならねえんだ」
「いいじゃなーい。一人で帰るより二人で帰る方が楽しいでしょ?」
「だったら他のヤツでもいいじゃねえか」
「もう!真壁くんったらツレナイんだから!」
「・・・・・」
そう言いながら足は進んでいるわけだから、結局こんな風に一緒に
帰っていることになってしまう。
蘭世が隣で並んで歩くことに今では何の違和感も感じない。
むしろだんだん当たり前になっていることに安堵感と焦燥感が交錯していた。
+++++
二人でたわいもない会話をしながら公園の前を通りかかった時、
一人の婦人が青ざめた顔で公園から出てきた。
俊が何か言おうとする前に蘭世が一足早く彼女に問いかけていた。
「あの…どうかされました?」
「あ…すみません…茶色のトイプードルが走ってきませんでしたか?」
「トイプードル?…いいえ…」
「あ…そう…ごめんなさい。ありがとう」
「迷子ですか?」
「ええ…ちょっとリードが外れてしまったら、駆けだしていってしまって…」
「まぁ…」
「まだ子犬なものでしつけもできてないし、外にも慣れてなくて…」
「それは心配ですね…」
蘭世は親身になってその話を聞いている。
俊は(またおせっかいが…)と思いながらもその場を離れることができずにいた。
でもこの調子だとたぶん…
「私、探すの手伝います!」
やっぱり…
そうくると思ったぜ…。
こいつのこういうところはもう把握済みだ。
そして次に言う言葉も…。
「あ…真壁くん、誘っといてごめんね。先に帰って。私ワンちゃん探してくる。」
俊は半分あきれながら、はぁと息を吐いた。
「あのなぁ…そんな話聞いてそれですんなりハイじゃあなんて鬼みたいなこと言えるか」
「え…一緒に探してくれるの?」
「しょうがねえだろ」
「ありがとー!!」
「あ、ありがとうございます」
ったく…
お前の犬なのか!って突っ込みたくなるほど喜んじゃって…。
しかし、蘭世のこういうところに俊は弱さを感じずにはいられなかった。
そんなこんなで蘭世と俊は行方不明の犬っころを探す羽目になったのである。
+++++
「いたか?」
「ううん…」
手分けして探し始めて小一時間ほどたっていた。
この近辺はしらみつぶしに探してみたが見つけることもできずに、
収穫なしのまま最初の公園に戻るとちょうど蘭世も戻ってきたところだった。
「いないね…どこいっちゃったんだろ…」
八方ふさがりの状態で立ちつくしているとそこに当の婦人も戻ってきた。
「すみません…お手を煩わせてしまって…」
「いえ。。。そんなことはいいんですが…見つかりませんね…」
蘭世はシュンとして俯く。
「このままでは申し訳ないからもうお二人ともお帰りになって。
後は私が探しますから」
「でも…まだ私大丈夫です。それに心配だし。。。」
隣で蘭世がそういうのを聞いて俊もおなじように思う。
このままだとなんとなく気分も晴れない。
俊はどうしたもんだろうかとぐるりと辺りを見渡した。
すると公園の固定遊具の中にちょこっと動く茶色の物体を見つけた。
「あ…あれ…」
「え?」
俊の言葉でいっせいに二人が俊の視線の先をたどる。
「あ…ラル!!」
婦人が悲鳴に近い声でそう叫ぶとラルと呼ばれたその茶色い物体は姿を現し、
一目散に駆けてきた。
そのまま婦人にとびつくのと同時に彼女は子犬を両手で抱きあげた。
「この子ですか?」
「はい!…本当にどうもありがとうございました」
「よかったぁ」
「こんなとこにいやがったのか…」
「灯台下暗しだね」
「ああ…まったくだ…ったく人騒がせなヤツだな」
「ホント、もう勝手にどっか行っちゃだめだよ?」
でもかわい~☆と蘭世はその子犬と戯れていた。
心から嬉しそうに笑う蘭世はキラキラしていた。
子犬が見つかったことはこの女性にとってはもちろんよかったことだが、
蘭世もこんなに楽しそうに子犬と遊ぶ姿を見て俊は安堵し、ふっと笑顔をこぼした。
そしてその姿になんとなく見惚れている自分に気づいてゴホンと一つ咳払いした。
+++++
「ホントにどうもありがとうございました」
子犬との再会を果たした後、婦人は深々とこちらに頭を下げた。
「いいえ~。私たち結局何もしてないですし…」
「そんなことないです。お二人がいなければ私もあきらめて帰っていたかもしれません。
ホントに助けられました。ありがとう」
俊と蘭世は顔を見合わせるとニコリとほほ笑みあった。
人にお礼を言われるなんて久しぶりだな。。。
俊はふとそう思った。
少し照れくささもあるけど、これはこれでなかなかいいものだ。
そして横で笑う蘭世に対しても…。
「あ、そうだ、今日のお礼にこれ…はいどうぞ」
「えっ…」
そういって婦人は鞄から紙切れを二枚取り出して俊の胸に押し付けた。
思いかけずのことで俊はチケットが胸からはらりと落ちそうになるのを
慌てて手のひらで押さえる。
「ちょ、ちょっと…これ…」
「今度の日曜までの映画のチケットなんですよ。
もらい物なんだけど私も用があって行けなくて…ちょうどよかったわ」
そういって彼女はにっこりほほ笑んだ。
「え…でも…」
「助けて下さったお礼よ。そちらの彼女さんとお二人でどうぞ」
「か、彼女!?」
蘭世は髪をピンと逆立たせた猫のように顔を真っ赤にさせる。
「いや…俺たちは別に…」
俊も突然の言葉に動揺しながらしどろもどろに否定するが、彼女はホホホと笑うだけだった。
「じゃあね。ありがとう」
そういって婦人は二人にひらひらと手を振ると頭を下げながら去って行った。
+++++
公園に俊と蘭世が取り残される。
俊は手のひらで押さえていた胸のチケットをつかみしばし思案してから
チラリと蘭世の様子を伺った。
そこにはキラキラと瞬かせた瞳がこちらを見ている。
彼女…か…。
いや!そんなんじゃねえし!
そう心で否定するも俊の胸の動悸はなかなか治まらなかった。
そんな眼で見られたら…
行かないなんて言えねえじゃねえか…
でもこういう風に言い聞かせている自分は
…なんてズルイ…。
俊はふぅと一息つくと一枚を左手にとって蘭世に差し出す。
「えっ…」
「まぁ…お前も一緒に探したわけだし…これをもらう権利は…ある」
チケットをじっと見つめていた蘭世は何かを訴えかけるような眼で俊を見上げた。
「そ、そちらのチケットは…」
「は?…んだよ。ことちは俺んだろうが!それとも何か?
2枚とも持ってって別のヤツとでもいくつもりかよ」
「そ、そんなこと…///」
「だったら…ほら…」
そう言って俊は蘭世の手を取りチケットを握らせた。
「一緒に…行ってくれるの?」
「二人にってくれたもんだし…まあそれに日曜はたまたま空いてたりするけど…」
自分でも思う…なんてあまのじゃくな言い方…。
ホントは…ちょっと…心が騒いでいる自分がいるくせに…
「お前が予定あるならそれは俺が頂く」
そういって蘭世の手からチケットを奪おうとすると
蘭世は普段からは想像がつかないほどの速さで
チケットを握った手を胸にしっかりと組んだまま身を翻した。
「予定なんてぜんっぜんない!すっごく暇」
ドキ…
どの瞬間、俊の胸の鼓動が大きく響いた。
蘭世の心底嬉しそうなその表情に思わず惹きつけられ、目が離せない。
そんな動揺を悟られないように俊は慌てて蘭世から目を逸らした。
「…じゃ、じゃあ日曜日、13時駅前だ。いいな」
「うん☆」
こちらの気持ちを察することもなく蘭世は満面の笑みでうなづいた。
察しられても困るけど…
でもその満面の笑みを見ているとほっと胸が温かくなってくる。
俊はなんとなく引き寄せたくなる衝動をため息で紛らわせた。
しかし、そのあと、どんな顔をすればいいかわからなかった。
どうしても顔の筋肉がゆるんでしまう。
表情のコントロールができずにさらに焦る。
ここはもう退散するしかない。
まだ明るいし、送っておくほどでもないだろう。
「んじゃ」
どういって背中越しにヒラヒラと手を振る。
言葉にするにはまだよくわからない感情を俊はもてあましながら
とにかく今はその場を離れてしまいたかった。
しかし日曜にもっとおおきな動揺にさらされることに
そのとき、俊はまだ気づいていないのだった。
<END>
+あとがき+
突然ですが移行途中に新作ぶっこみました(笑)
以前に書きとめていたものなので書いたのはだいぶ前なんですが…。
まだまだ中学時代なので糖度は低めですね。
それと、ラスト、次回に続きそうな終わり方をしてますが
特に何も考えてません…オイ。
そのうち機会があれば^^;
薄暮のあと
俊×蘭世 中学時代 「夏の夕暮れ」の続編です。
俊視点。
急遽、一緒に行くことになった蘭世との夏祭りは、
まだ夕暮れ時だったが、すでに大勢の人が神社の境内に訪れていた。
そしてその隣にある広い公園では、中央にやぐらが建てられ、
まだまばらではあったが、徐々に盆踊りの輪ができつつあった。
蘭世は初めて目にする夏祭りに心躍らせながらキョロキョロとあたりを眺めていた。
制服だとまずいからと一度家に帰って着替えては来たのだが、
周りはみんな浴衣姿が多いことに蘭世はとても残念がっていた。
「みんな浴衣着てるね。私も浴衣にすればよかったな~」
蘭世がそういうのに何でも一緒だって答えると
「もう。女心がわかってない!」と蘭世はぷっと膨れてしまった。
実際何を着たって中身は一緒なんだからとそう思っただけなのに
女はすぐこんな風にすねるから、つい女なんて面倒くせぇと思ってしまう。
それでも蘭世のこういう態度は何故か他の女とは違う、どこか許せるものがあった。
「はいはい、すみませんね」とだけ軽くかわしたが、
蘭世の怒りも見せかけだったようですぐニコニコした笑顔に戻っていた。
単に話の成行きのようなもので祭りに来ることになったが、
蘭世のこんな嬉しそうな笑顔を見ると、来てよかったと思う。
蘭世が自分の発する言動によってふと悲しい表情を見せることに俊はいつからか気づいていた。
そしてその表情を見たとき、自分の胸がギュッと締め付けられるような感覚を
覚えることにも…。
この痛みが一体何なのか…。
それを自分に問いかけたことはまだない。
いや、何度かは問いかけようとはした。
しかし、正解が出るのかもわからなかったし、またその答えが出たとき、
自分がどうなってしまうのか、想像すらつかなくて恐怖にも似た思いが走るのだった。
ただ、答えが出ようが出まいが、蘭世によって自分が徐々に変化していっていることは
まぎれもない事実だった。
それは、自分の意志とは関係なく、ついそうしてしまう…そう言ってしまう…。
今回のことだったそうだ。
自分はただ単に補習が終わったことに安堵し、解放感しかなかったものだから
蘭世は寂しがっているなんて思いもしていなかった。
だから彼女が今にも泣き出しそうな顔になったのを見て面食らったとともに、
また自分が何かくだらないことで傷つけたのではないかと焦ったのだ。
しかし、彼女が落ち込んでいる原因を知った時、心臓が大きく弾け
そこからその周囲がほんわり温かくなり、その温かみが顔のほうにまで
達してくるのがわかって、慌てて蘭世に背を向けてしまった。
背を向けて自分の気持ちを悟られないようにしながら考える。
その時ハッとした。
(そうか…始業式まで会わねえのか…)
そう思った時、蘭世の気持ちがなんとなくわかった気がした。
どうしたらふと口をついて出てしまったのだ。
祭りのことは少し前から頭にあった。
神社は俊の登校途中にあるし、準備しているのも目にしていたのだ。
毎年この時期に行われる夏祭りは子どもの頃はよく行っていたけれど
最近では遠のいていた。
しかし、実は今朝ふと思ったのだ。
・・・アイツも祭りとかいったりするのか?・・・って…
俊にとっては珍しいことだ。
祭りそれを結びつけたものは蘭世の姿だった。
その時はホントにふと思っただけでまさか自分が誘うことになろうとは
思ってもいなかったが、もしかしたらずっと心にひっかかっていたのかもしれない。
蘭世の鈍い反応に苛立ちと恥ずかしさに耐えかねて、また気の利かない誘い方をしたものだと
自分でもあきれたが、そんなことは蘭世にはなんの関係もなかったようで
それまでとは打って変わった嬉しそうな顔に思わず言葉を失った。
それくらいのことで、そこまで喜ぶなんて思いもしなかったから…
そしてその表情を見た途端、白くて細いその腕を引き寄せて抱きしめてしまいたくなった。
気持ちを抑えることには慣れているが、このときほど抑えに難儀したことはなかった。
それでも自分の気持ちを確かめる勇気はまだ出ない…。
*****
境内へと続く参道の両脇にはたくさんの夜店も出ている。
赤みを帯びた明りが暗くなりかけた辺りをほんわりと照らしていた。
蘭世はその迫力に面食らうばかりだ。
「うわ~」
思わずこぼれた感嘆の声に俊はふっと笑った。
「子どもみてぇ」
その言葉に蘭世はポッと赤くなる。
「だ、だって…こんなの初めてで…」
その恥じらった仕草に俊は心臓がコトリと動くのを感じた。
今日はいったい何度目だ…と小さく息を吐く。
自分の調子が狂うのは疲れるが、それを嫌だとは思わない。
ただ、嫌だと思わない自分にもまた調子が狂う。
それが今日は特にひどい。
とにかく自分の動揺に気づかれるわけにはいかないから
俊は「ほら行くぞ」となんでもないフリをした。
+++++
蘭世の腕には金魚の入った透明の袋。
中身は俊がとってやったものだ。
「お前、どう考えても下手くそすぎるだろ」
蘭世は自分で7回挑戦した。
しかし、2回目、3回目…と進めても蘭世は失敗の経験を活かせることなく、
あっけなくポイはものの数秒で見事に破けてしまうのだった。
8回目に挑戦しかけた蘭世を俊は見かねてそれを制した。
このまま挑戦し続けても金魚屋を手放しに喜ばせるだけだと自分が代わった。
自分もそれほど得意なわけではないが、7匹ほど軽くすくえた。
そのうちの意気のいいのを5匹もらってそれを蘭世にやったのだ・
「真壁くん、すごいね~」
先ほどからその言葉を繰り返す蘭世に俊は
「だからお前が下手すぎるの」
「コツをつかむ前に真壁くんが取り上げちゃったんじゃない」
「7回もやってつかめねえんじゃ100回やっても一緒だよ」
「そんなことないもん」
そういいながらも蘭世は「あ、あれならできるかも」と言って
射的の店に駆け寄った。
「おい、走るなよ」
そういって蘭世の後をあきれながらも追いかける。
それでも蘭世はとても楽しそうだし実際俊も楽しかった。
こんなに祭りが楽しく思えたのは何年振りだろう。
「見ててよ。真壁くん」
そう言いながら射的の銃を蘭世が構える。
「その構え、なんだ?」
蘭世がまたけったいな持ち方で銃を構えている。
「ダメ?」
「こうだろ」
そういって俊が蘭世の腕を背後からつかむと、蘭世はびくっと硬直した。
その動揺がこちらにまで伝わってくる。
(な、なんだよ)
照れくさくなってさっさと身構えさせると俊は蘭世から離れた。
「こ、こうね。ありがとう。じゃあ打つよ」
パンっと弾けた銃弾の行先は並んだ的に何の変化も起こさせなかった。
「ぶっ…お前、どれ狙ったんだ?」
思わず噴き出す俊に蘭世は真っ赤になる。
「あの赤くて四角いヤツ…でも今のは感覚の練習だからもう1回ね」
弾は3個ある。まあ初めてなんだしと真剣な眼差しの蘭世を見守るが
真剣にしているほど可笑しくなってくる。
そして案の定2個目も大きく外れる。
「くくく・・・」
笑うと怒るから声を殺して笑うがもちろんばれる。
「もう!次は必ず!」
+++++
結局、計9弾試したものの、的にはかすりもせず蘭世はがっくりうなだれた。
「貸してみろ」
俊はそういって蘭世から銃を奪う。
「どれがいい?」
そういうと蘭世はピンクの丸い置物を指定した。
俊が狙いを定める。
そして打った瞬間、その的はパタリと後ろに倒れた。
「わっ!すごい!一発で?」
「次は?」
俊は得意げな顔で蘭世にほほ笑んだ。
+++++
「すごーい。3発とも当てちゃった」
「ざっとこんなもんだ」
俊は3投目も的確に当てた。
射的は小さいころから得意だったから腕には自信があったのだ。
蘭世からの称賛を浴びていると的屋の店主が箱を持って近づいてきた。
「兄ちゃん、景品はどれにする?」
そういって店主が景品の入った箱を見せた。
中にはいろんなおもちゃや小物など雑多に混じって放り込まれていた。
俊はざっと見渡したがとりわけ欲しいものがあるわけでもないし、
射的そのものに興味があっただけだから蘭世に言った。
蘭世が興味深そうに隣で覗き込んでいたからだ。
「お前、選んでいいよ」
「え?私?いいの?」
「ああ」
「じゃ、じゃあねぇ…」
と言いながら蘭世は真剣に景品を選び始めた。
そして小さく「あっ…///」ともらした。
「何だ?」
「あ…えっと…どれでもいいの?」
「あぁ…別に俺いらねえし」
「じゃ、じゃあ…これ…」
そういって蘭世は袋に入った何かきらっと光るものを手に取ると、
そのまますくっと立ちあがった。
「これ!これいただきます!おじさんありがとーー」
そういって蘭世はその場から突然駆け出した。
「え?あ、ちょ、ちょっと!おい!」
俊は瞬時に顔を見合わせた店主に軽く頭を下げて走り去る蘭世を追いかけた。
+++++
人ごみから少し外れた先で追い付いて俊は蘭世の腕をつかむ。
「待てよ!何だよ急に。はぐれても知らねえぞ」
そう怒鳴りながら蘭世の体を自分の方に向けると
蘭世は真っ赤な顔で俊を見ていた。
「…どうした?」
「…ううん」
そういって蘭世は首を横に振ったが納得できるはずもなく、
胸の前で握りしめている両手をつかんだ。
「何を選んだんだ?」
そういうと蘭世はかたくなに手を握りしめる。
「見せろよ」
「やだ」
「俺がとった景品じゃねえか。見る権利はある」
「真壁くんが選んでいいっていうから…これは私のモノ!」
「バカ!別に欲しいなんて言ってねえだろ。何か見せろよ。気になるじゃねえか」
「だ、だって…あきれるもん。絶対!」
「それは見てから俺が判断する」
「だめーーー」
「うるさい」
そういって俊は蘭世の指を力づくでこじ開けた。
そこには…
透明の袋に入った銀色の小さなおもちゃの指輪があった。
赤い小さな石がキラリと光った。
さっき目に入った光はこの石だったのだ。
思わず言葉を見失う。
ぼーっと見ている間に蘭世はまたぎゅっとそれを握りしめて俊に背を向けた。
「そ、そりゃ、私が勝手に選んだものだけど、
真壁くんがとってくれたことに変わりないから…」
「・・・」
「お、お守りにするの!全部当てちゃったんだもん。
ほら、何かいいことあるかもしれないし…」
俊は蘭世の言葉を黙って聞いていた。
女性が指輪を欲しがる理由はいくら色恋事に無頓着な俊でもピンときた。
それがどういう意味なのかわかってしまったからどう答えていいのかわからなかった。
だが、その蘭世の背中がひどく愛しくて俊の心臓はまた大きく鳴り続いていた。
蘭世が指輪を選んだことに、そしてそれを恥じらいながら隠す仕草も
何もかもが俊の心を捉えてしまった。
自分をこんな風にかき乱す蘭世に腹が立つ。
しかし、その怒りの奥に湧き上がる甘い疼きを抑えるのに俊は必死だった。
蘭世の気持ちは知っていた。
以前、面と向かって告げられたことがある。
なんとなくなかったことにしてしまったけれど…。
あの時と同じ。
抱きしめたがる腕を押さえる。
抱きしめてしまうのが怖いのだ。
俊はゆっくりと息を吐いた。
全身を駆け巡る動揺と緊張と焦燥を息とともに吐き出して気持ちを整える。
そして蘭世の肩をつかんでゆっくりと振り向かせた。
まだ真っ赤な顔をして俯いている蘭世を見た。
鼻の奥がツンとする。
肩を乗せた手を引き寄せるとたぶん簡単に蘭世の体はこちらに倒れてきそうだった。
しかし、そうするのはなんとなくまだ早い気がした。
俊は手を蘭世の肩からはずしそのまま右手でポンポンと蘭世の頭を撫でた。
はっと蘭世が顔を上げる。
きょとんとしたその表情に幾分主の心は持ち直した。
「ホント子どもみてぇ」
「…なっ…///」
「別に逃げなくても」
「だ、だって…恥ずかしかったというか…///」
「置き去りにされた俺の方がよっぽど恥ずかしいだろ」
「あ…ご、ごめんなさい」
蘭世の顔がさっと青ざめる。
コロコロと表情を変える蘭世を見ているとホント飽きない。
多少心を乱されることはあるが、それはそれで厭わない。
俊は自分の気持ちがゆっくりと開けていくのを感じていた。
そしてその奥にある気持ちの答えが少し見えかけていることも…。
「ま、お子ちゃまにはそのおもちゃで十分だな」
「な、なによぉ…」
再び顔を赤くして怒る蘭世に俊はふっと笑って左手で蘭世の右手をとった。
「…えっ…///」
パッと蘭世が俊を見つめた。
しかし、俊はそっとその視線から瞳を逸らせた。
「お前、絶対迷子になるからな」
そういってつかんだ手のひらを引いて歩きだした。
心臓はまだうるさいくらいに動いている。
それでも今はこのつないだ手を放したくなかった。
汗ばんでも、あともう少しだけ…
辺りはいつしか暗くなっていて見上げると星が瞬き始めていた。
見上げながら気持ちを落ち着かせる。
ホントはこの腕を引っ張って胸の中に抱きこんでしまいたいけれど…。
俊はつないだ手をもう少し強く握りしめるので精いっぱいだった。
<END>
+あとがき+
まだまだウブイ二人。
ウブイ二人を書いてるともっと進んだ二人を書きたくなってくる…
そんな衝動を思い出しました。
でも時系列に並べるってことにしたからぁ…
もうちょい先ですね^^;
俊視点。
急遽、一緒に行くことになった蘭世との夏祭りは、
まだ夕暮れ時だったが、すでに大勢の人が神社の境内に訪れていた。
そしてその隣にある広い公園では、中央にやぐらが建てられ、
まだまばらではあったが、徐々に盆踊りの輪ができつつあった。
蘭世は初めて目にする夏祭りに心躍らせながらキョロキョロとあたりを眺めていた。
制服だとまずいからと一度家に帰って着替えては来たのだが、
周りはみんな浴衣姿が多いことに蘭世はとても残念がっていた。
「みんな浴衣着てるね。私も浴衣にすればよかったな~」
蘭世がそういうのに何でも一緒だって答えると
「もう。女心がわかってない!」と蘭世はぷっと膨れてしまった。
実際何を着たって中身は一緒なんだからとそう思っただけなのに
女はすぐこんな風にすねるから、つい女なんて面倒くせぇと思ってしまう。
それでも蘭世のこういう態度は何故か他の女とは違う、どこか許せるものがあった。
「はいはい、すみませんね」とだけ軽くかわしたが、
蘭世の怒りも見せかけだったようですぐニコニコした笑顔に戻っていた。
単に話の成行きのようなもので祭りに来ることになったが、
蘭世のこんな嬉しそうな笑顔を見ると、来てよかったと思う。
蘭世が自分の発する言動によってふと悲しい表情を見せることに俊はいつからか気づいていた。
そしてその表情を見たとき、自分の胸がギュッと締め付けられるような感覚を
覚えることにも…。
この痛みが一体何なのか…。
それを自分に問いかけたことはまだない。
いや、何度かは問いかけようとはした。
しかし、正解が出るのかもわからなかったし、またその答えが出たとき、
自分がどうなってしまうのか、想像すらつかなくて恐怖にも似た思いが走るのだった。
ただ、答えが出ようが出まいが、蘭世によって自分が徐々に変化していっていることは
まぎれもない事実だった。
それは、自分の意志とは関係なく、ついそうしてしまう…そう言ってしまう…。
今回のことだったそうだ。
自分はただ単に補習が終わったことに安堵し、解放感しかなかったものだから
蘭世は寂しがっているなんて思いもしていなかった。
だから彼女が今にも泣き出しそうな顔になったのを見て面食らったとともに、
また自分が何かくだらないことで傷つけたのではないかと焦ったのだ。
しかし、彼女が落ち込んでいる原因を知った時、心臓が大きく弾け
そこからその周囲がほんわり温かくなり、その温かみが顔のほうにまで
達してくるのがわかって、慌てて蘭世に背を向けてしまった。
背を向けて自分の気持ちを悟られないようにしながら考える。
その時ハッとした。
(そうか…始業式まで会わねえのか…)
そう思った時、蘭世の気持ちがなんとなくわかった気がした。
どうしたらふと口をついて出てしまったのだ。
祭りのことは少し前から頭にあった。
神社は俊の登校途中にあるし、準備しているのも目にしていたのだ。
毎年この時期に行われる夏祭りは子どもの頃はよく行っていたけれど
最近では遠のいていた。
しかし、実は今朝ふと思ったのだ。
・・・アイツも祭りとかいったりするのか?・・・って…
俊にとっては珍しいことだ。
祭りそれを結びつけたものは蘭世の姿だった。
その時はホントにふと思っただけでまさか自分が誘うことになろうとは
思ってもいなかったが、もしかしたらずっと心にひっかかっていたのかもしれない。
蘭世の鈍い反応に苛立ちと恥ずかしさに耐えかねて、また気の利かない誘い方をしたものだと
自分でもあきれたが、そんなことは蘭世にはなんの関係もなかったようで
それまでとは打って変わった嬉しそうな顔に思わず言葉を失った。
それくらいのことで、そこまで喜ぶなんて思いもしなかったから…
そしてその表情を見た途端、白くて細いその腕を引き寄せて抱きしめてしまいたくなった。
気持ちを抑えることには慣れているが、このときほど抑えに難儀したことはなかった。
それでも自分の気持ちを確かめる勇気はまだ出ない…。
*****
境内へと続く参道の両脇にはたくさんの夜店も出ている。
赤みを帯びた明りが暗くなりかけた辺りをほんわりと照らしていた。
蘭世はその迫力に面食らうばかりだ。
「うわ~」
思わずこぼれた感嘆の声に俊はふっと笑った。
「子どもみてぇ」
その言葉に蘭世はポッと赤くなる。
「だ、だって…こんなの初めてで…」
その恥じらった仕草に俊は心臓がコトリと動くのを感じた。
今日はいったい何度目だ…と小さく息を吐く。
自分の調子が狂うのは疲れるが、それを嫌だとは思わない。
ただ、嫌だと思わない自分にもまた調子が狂う。
それが今日は特にひどい。
とにかく自分の動揺に気づかれるわけにはいかないから
俊は「ほら行くぞ」となんでもないフリをした。
+++++
蘭世の腕には金魚の入った透明の袋。
中身は俊がとってやったものだ。
「お前、どう考えても下手くそすぎるだろ」
蘭世は自分で7回挑戦した。
しかし、2回目、3回目…と進めても蘭世は失敗の経験を活かせることなく、
あっけなくポイはものの数秒で見事に破けてしまうのだった。
8回目に挑戦しかけた蘭世を俊は見かねてそれを制した。
このまま挑戦し続けても金魚屋を手放しに喜ばせるだけだと自分が代わった。
自分もそれほど得意なわけではないが、7匹ほど軽くすくえた。
そのうちの意気のいいのを5匹もらってそれを蘭世にやったのだ・
「真壁くん、すごいね~」
先ほどからその言葉を繰り返す蘭世に俊は
「だからお前が下手すぎるの」
「コツをつかむ前に真壁くんが取り上げちゃったんじゃない」
「7回もやってつかめねえんじゃ100回やっても一緒だよ」
「そんなことないもん」
そういいながらも蘭世は「あ、あれならできるかも」と言って
射的の店に駆け寄った。
「おい、走るなよ」
そういって蘭世の後をあきれながらも追いかける。
それでも蘭世はとても楽しそうだし実際俊も楽しかった。
こんなに祭りが楽しく思えたのは何年振りだろう。
「見ててよ。真壁くん」
そう言いながら射的の銃を蘭世が構える。
「その構え、なんだ?」
蘭世がまたけったいな持ち方で銃を構えている。
「ダメ?」
「こうだろ」
そういって俊が蘭世の腕を背後からつかむと、蘭世はびくっと硬直した。
その動揺がこちらにまで伝わってくる。
(な、なんだよ)
照れくさくなってさっさと身構えさせると俊は蘭世から離れた。
「こ、こうね。ありがとう。じゃあ打つよ」
パンっと弾けた銃弾の行先は並んだ的に何の変化も起こさせなかった。
「ぶっ…お前、どれ狙ったんだ?」
思わず噴き出す俊に蘭世は真っ赤になる。
「あの赤くて四角いヤツ…でも今のは感覚の練習だからもう1回ね」
弾は3個ある。まあ初めてなんだしと真剣な眼差しの蘭世を見守るが
真剣にしているほど可笑しくなってくる。
そして案の定2個目も大きく外れる。
「くくく・・・」
笑うと怒るから声を殺して笑うがもちろんばれる。
「もう!次は必ず!」
+++++
結局、計9弾試したものの、的にはかすりもせず蘭世はがっくりうなだれた。
「貸してみろ」
俊はそういって蘭世から銃を奪う。
「どれがいい?」
そういうと蘭世はピンクの丸い置物を指定した。
俊が狙いを定める。
そして打った瞬間、その的はパタリと後ろに倒れた。
「わっ!すごい!一発で?」
「次は?」
俊は得意げな顔で蘭世にほほ笑んだ。
+++++
「すごーい。3発とも当てちゃった」
「ざっとこんなもんだ」
俊は3投目も的確に当てた。
射的は小さいころから得意だったから腕には自信があったのだ。
蘭世からの称賛を浴びていると的屋の店主が箱を持って近づいてきた。
「兄ちゃん、景品はどれにする?」
そういって店主が景品の入った箱を見せた。
中にはいろんなおもちゃや小物など雑多に混じって放り込まれていた。
俊はざっと見渡したがとりわけ欲しいものがあるわけでもないし、
射的そのものに興味があっただけだから蘭世に言った。
蘭世が興味深そうに隣で覗き込んでいたからだ。
「お前、選んでいいよ」
「え?私?いいの?」
「ああ」
「じゃ、じゃあねぇ…」
と言いながら蘭世は真剣に景品を選び始めた。
そして小さく「あっ…///」ともらした。
「何だ?」
「あ…えっと…どれでもいいの?」
「あぁ…別に俺いらねえし」
「じゃ、じゃあ…これ…」
そういって蘭世は袋に入った何かきらっと光るものを手に取ると、
そのまますくっと立ちあがった。
「これ!これいただきます!おじさんありがとーー」
そういって蘭世はその場から突然駆け出した。
「え?あ、ちょ、ちょっと!おい!」
俊は瞬時に顔を見合わせた店主に軽く頭を下げて走り去る蘭世を追いかけた。
+++++
人ごみから少し外れた先で追い付いて俊は蘭世の腕をつかむ。
「待てよ!何だよ急に。はぐれても知らねえぞ」
そう怒鳴りながら蘭世の体を自分の方に向けると
蘭世は真っ赤な顔で俊を見ていた。
「…どうした?」
「…ううん」
そういって蘭世は首を横に振ったが納得できるはずもなく、
胸の前で握りしめている両手をつかんだ。
「何を選んだんだ?」
そういうと蘭世はかたくなに手を握りしめる。
「見せろよ」
「やだ」
「俺がとった景品じゃねえか。見る権利はある」
「真壁くんが選んでいいっていうから…これは私のモノ!」
「バカ!別に欲しいなんて言ってねえだろ。何か見せろよ。気になるじゃねえか」
「だ、だって…あきれるもん。絶対!」
「それは見てから俺が判断する」
「だめーーー」
「うるさい」
そういって俊は蘭世の指を力づくでこじ開けた。
そこには…
透明の袋に入った銀色の小さなおもちゃの指輪があった。
赤い小さな石がキラリと光った。
さっき目に入った光はこの石だったのだ。
思わず言葉を見失う。
ぼーっと見ている間に蘭世はまたぎゅっとそれを握りしめて俊に背を向けた。
「そ、そりゃ、私が勝手に選んだものだけど、
真壁くんがとってくれたことに変わりないから…」
「・・・」
「お、お守りにするの!全部当てちゃったんだもん。
ほら、何かいいことあるかもしれないし…」
俊は蘭世の言葉を黙って聞いていた。
女性が指輪を欲しがる理由はいくら色恋事に無頓着な俊でもピンときた。
それがどういう意味なのかわかってしまったからどう答えていいのかわからなかった。
だが、その蘭世の背中がひどく愛しくて俊の心臓はまた大きく鳴り続いていた。
蘭世が指輪を選んだことに、そしてそれを恥じらいながら隠す仕草も
何もかもが俊の心を捉えてしまった。
自分をこんな風にかき乱す蘭世に腹が立つ。
しかし、その怒りの奥に湧き上がる甘い疼きを抑えるのに俊は必死だった。
蘭世の気持ちは知っていた。
以前、面と向かって告げられたことがある。
なんとなくなかったことにしてしまったけれど…。
あの時と同じ。
抱きしめたがる腕を押さえる。
抱きしめてしまうのが怖いのだ。
俊はゆっくりと息を吐いた。
全身を駆け巡る動揺と緊張と焦燥を息とともに吐き出して気持ちを整える。
そして蘭世の肩をつかんでゆっくりと振り向かせた。
まだ真っ赤な顔をして俯いている蘭世を見た。
鼻の奥がツンとする。
肩を乗せた手を引き寄せるとたぶん簡単に蘭世の体はこちらに倒れてきそうだった。
しかし、そうするのはなんとなくまだ早い気がした。
俊は手を蘭世の肩からはずしそのまま右手でポンポンと蘭世の頭を撫でた。
はっと蘭世が顔を上げる。
きょとんとしたその表情に幾分主の心は持ち直した。
「ホント子どもみてぇ」
「…なっ…///」
「別に逃げなくても」
「だ、だって…恥ずかしかったというか…///」
「置き去りにされた俺の方がよっぽど恥ずかしいだろ」
「あ…ご、ごめんなさい」
蘭世の顔がさっと青ざめる。
コロコロと表情を変える蘭世を見ているとホント飽きない。
多少心を乱されることはあるが、それはそれで厭わない。
俊は自分の気持ちがゆっくりと開けていくのを感じていた。
そしてその奥にある気持ちの答えが少し見えかけていることも…。
「ま、お子ちゃまにはそのおもちゃで十分だな」
「な、なによぉ…」
再び顔を赤くして怒る蘭世に俊はふっと笑って左手で蘭世の右手をとった。
「…えっ…///」
パッと蘭世が俊を見つめた。
しかし、俊はそっとその視線から瞳を逸らせた。
「お前、絶対迷子になるからな」
そういってつかんだ手のひらを引いて歩きだした。
心臓はまだうるさいくらいに動いている。
それでも今はこのつないだ手を放したくなかった。
汗ばんでも、あともう少しだけ…
辺りはいつしか暗くなっていて見上げると星が瞬き始めていた。
見上げながら気持ちを落ち着かせる。
ホントはこの腕を引っ張って胸の中に抱きこんでしまいたいけれど…。
俊はつないだ手をもう少し強く握りしめるので精いっぱいだった。
<END>
+あとがき+
まだまだウブイ二人。
ウブイ二人を書いてるともっと進んだ二人を書きたくなってくる…
そんな衝動を思い出しました。
でも時系列に並べるってことにしたからぁ…
もうちょい先ですね^^;